ただ、そのサービス自体は開発段階でいくつも課題が見つかり、断念することになる。

「そもそもスマホ(アプリ)ではなくウェブという時点で使いづらい部分がありましたし、自社オリジナルのコンテンツも『果たしてそれが本当にTOEICの試験で出るのか』という観点でクオリティに難があった。当時はTOEICの問題が100問も200問も解き放題の無料アプリなどがあったこともあり、自分たちのサービスはコンテンツ面でもプロダクト面でも中途半端で、ユーザーに使ってもらえるとは思えませんでした」(幾嶋氏)

試験的に開発したウェブサービスは課題が多く、一度断念することを決めた
 

自身の構想を実現するには優秀なエンジニアの力に加えて、アイデアを練り直すことも必要──。

幾嶋氏は「会社をやりながらでも良いから、うちに来ないか」と声をかけてくれていたソフトバンクに新卒で入社。日中は通常の業務をこなしながら、平日の夜や土日を使って自らの事業案を磨く日々が始まった。

並行して同期のエンジニアに構想を話しながら、興味を持ってくれそうな人を探し続けた。現CTOの上赤一馬氏はその時に出会った1人だ。試験版での反省も踏まえながら一緒に方向性を検討する中で、現在のabceedにもつながる重要な意思決定をした。

それは学習コンテンツを自社でゼロから作るのではなく、良質な市販教材を集めた“プラットフォーム型”のサービスにするということだ。その解答データを蓄積していくことで、将来的にはレコメンドエンジンを実装するというプランを立てた。

また最初から理想とする機能を全て詰め込もうとしては、膨大な時間とコストがかかってしまう。まずは限定的な機能に絞り込んだ“ミニマムなプロダクト”から始めることにした。

念願のベータ版、シンプルな「マークシートアプリ」から 

2015年12月、幾嶋氏たちは念願のベータ版のローンチに漕ぎ着ける。当時のabceedはシンプルな「マークシートアプリ」。マークシート式の問題をアプリ上でタップしながら解答すると、自動で採点や分析をしてくれるものだったという。

このアプリを片手に幾嶋氏は出版社にアプローチをするが、結果は全敗。実績の乏しいスタートアップの話を聞いてもらえること自体が少なく、ようやく話を聞いてもらえた出版社でも「うちでは必要ありません」と断られた。

アプリをローンチできたとはいえ、肝心のコンテンツが集まってこなければ、ユーザーが使うメリットは少ない。認知度が低かったこともあり、ダウンロード数も「1日1ダウンロードあるかないか」という低調なスタートだった。