こうしてエコーチェンバー(閉鎖的な空間でコミュニケーションを重ねることで、特定の信念が強化されること)が強まっていき、既得権益を持っている人がますます強化されてしまう。その先にあるのが、いわゆる「トランプ現象」や「ブレグジット」を巡る混乱だ。ブログのような情報発信プラットフォームの「note」など、各人がじっくりと執筆できる場も存在するが、「『〇〇さんの投稿が見たい』という『人』をベースにしてつながるプラットフォームだという点では同じです」と江島氏はいう。
これに対して、Quoraがベースにしているのは人ではなく情報(トピック)だ。回答の表示順アルゴリズムも人気だけが基準ではないし、疑問を解消するために閲覧する過程でさまざまな意見に触れやすい。
Quoraにもユーザーのフォロー機能は存在するし、スペース機能もスター投稿者の権力化を助長する可能性もある。それでも、「人ではなく『情報』をベースにしている点は揺るがない」と江島氏は強調する。
「Quoraには『Be Nice, Be Respectful(親切にしよう、尊敬の念を持とう)』というポリシーが存在します。ヘイトスピーチや嫌がらせに該当すると認定されたユーザーには制限が課され、場合によってはアカウントが凍結されます。日本語版ではまだ大きな問題は少ないですが、アカウントを凍結された方もいます。表現の自由を優先しがちな他のメディアに比べると、強行的なポリシーを提示していますが、それはプラットフォームとして重視するのが自由なコミュニケーションではないからです。Quoraのミッションはあくまで『知識を広め深めること』なので、それに寄与しない発言は取り締まるべきと考えます。これからはそうした規制によってこそ、生産的な議論が成立するのではないでしょうか」(江島氏)
日本市場は重要だが、「攻略難度が高い」
Quora日本語版では、引き続きサービスを拡大させてユーザー獲得を狙うともに、まだ開始から1年程度のスペース機能の普及に注力していく。スペースの管理者や良質な書き手に、より報酬が入りやすくなる仕組みなども検討中。江島氏によれば、グローバル全体の中でも、日本語版は重要な位置づけにあるという。
「アジアで初めてリリースされたことからもわかるように、日本語版はアジア展開の方向性を位置付ける役割を担っています。また、シリコンバレーではかねてから『日本でのコンシューマー向けサービスは難しい』と言われてきました。さまざまなメディアが存在し、上質なエンタメも多い日本人の可処分時間を奪うのは大変だと認識されています」(江島氏)