創業当初からアメリカには、日本の「Yahoo!知恵袋」に当たる「Yahoo Answers」などのQ&Aサイトが競合として存在したが、Quoraが特徴的なのは実名制を採用していることだ。匿名での投稿も選択できるが、質問者や回答者の氏名・肩書きは基本的に公開されるため、荒らし目的の投稿が減り、どのような属性の人物による投稿なのかを踏まえながら回答を読むことができる。
質問によってはそのジャンルの権威者や著名人が回答していることもあり、「ジャッキー・チェンは実際に会うと、どんな感じの人ですか?」という質問にチェン本人が回答していたり、Apple Watchのデザインについての質問に対してApple Watchのプロダクトデザインリーダーが回答していたりもする。
「最近のJ-POPの歌詞はひどくありませんか?」といった定量的な答えのない質問も少なくないが、こうした質問に対して放送作家が回答し、歌詞の大半を「猫飼いたい」が占める曲で盛り上がる若者の感性に感心していたり、ギター講師がレベッカ『フレンズ』のひらがなばかりの歌詞を「当時の女の子らしさを表現している」と評価していたり、さまざまな肩書きのユーザーが独自の意見を展開しているのが面白い。日本語版では最近、新型コロナウィルスに関する質問に対して医師が回答することも多い。
日本語版は2017年にリリースされており、現在は24の言語に対応している。2018年(日本語版では2019年)には、「スペース」機能が追加された。この機能では「最近読んだ本」「世界中の飲食」といったトピックごとに、質問に限らず自由に文章を投稿できる。これはQ&Aだけではカバーできない時事性のある話題に対応するのが狙いだという。スペースに参加するためには、管理者の承認が必要だ。
日本語版のユーザー数などは非公開だが、「良い意味で期待を裏切るペースで成長を続けている」と江島氏。今年5月には世界中の優れた質問と回答をまとめたムック本『Quora 世界最大級の知識共有プラットフォーム ビジネスと人生の課題をすべて解決する』(角川アスキー総合研究所)が日本で発売されており、今後もさらに積極的に日本での展開を進めていくそうだ。
サービスの核は、「いかに良質な質問を生み出すか」
江島氏によれば、Quoraがサービスを運営する上で特に意識しているのが、「良質な質問が多く投稿される環境」だ。ここでいう良質な質問とは、恋愛観や子供の育て方といった人によって最適解が全く異なる個人的な悩みではなく、より一般的な文章で表現され、普遍的な答えを導きやすい質問、つまり、Quoraのミッションである「世界中の知識を共有し、広め深めること」に貢献しやすい質問を指す。Quoraでは「素晴らしい回答や積極的な議論を引き起こすためには、何より良質な質問が潤沢であるべきだ」と結論づけている。