転機になったのは、医学部の友人と「九州大学医学部物理学科」という非公認サークルを作ったことだ。所属していた数理医学研究室で学んだプログラミングスキルを用いて医療分野で役立つソフトを作ろうと、手探りで複数のシステムを開発。機械学習技術を使った「細胞のトラッキングシステム」もその際に生まれた。

後にこれを見た研究室の教授から「病理診断にも使えるかもしれない」とフィードバックを受けたことが、PidPortのルーツになっている。

冒頭でも触れた通り、病理診断を担当する専門の病理医は約2500人しかいない。全ての病院やクリニックに病理医がいる訳ではないので、1人の病理医が複数の施設を周ったり、病理医がいる病院や検査センターへ細胞組織を郵送して診断を依頼したりすることで対応してきた。

病理医の業務負荷が大きいことに加えて、検査結果が出るまでに数週間を要することもあり患者側のペインも大きい。この双方の課題を機械学習技術を軸としたテクノロジーで解消できないか、というのがメドメインのチャレンジだ。

同社では特に病理AIの研究開発に創業期から力を入れてきた。国内外で50以上の病院・関連施設とタッグを組み、複数の臓器・疾患に関するデータを収集。専門家の力を借りながら教師データを作成し、それを深層学習させることで独自の病理AIを作り上げてきた。

病理AIが解析を行なった画像

病理AIでは画像データを取り込むだけで瞬時に画像を解析し、腫瘍の有無などを表示する。最終的には人間の病理医が確認してジャッジするのはこれまでと同様だが、AIが診断支援ツールとして最初のスクリーニングをすることで病理医の負荷を減らせる。スクリーニングしたとしても自院に専任の病理医がいない場合には、遠隔診断機能を併せて使うことでスピーディーに診断を進めることも可能だ。

現時点では臨床的に症例数の多い、胃・大腸・乳腺・肺の腫瘍性病変における組織判定および、子宮頸部や尿の細胞判定(腫瘍性判定の有無)に対応。今後は膵臓・肝臓・皮膚など他の臓器における腫瘍性病変を含む疾患などもカバーしていくほか、AIの特長を生かした革新的な疾患予測モデルの創出にも取り組むという。

病理現場のデジタルシフトを支援、製薬企業などからの引き合いも

日本では病理AIを除く機能からの提供にはなっているものの、2月のローンチ以降、複数の病院や製薬企業などに活用されている。

ある大病院では関連病院を各地に抱えているため、グループ内の病理医が飛行機や鉄道などを使って複数の施設を訪れ、現地で診断やコンサルテーションを行っていた。そこにPidPortを取り入れることで場所の制約がなくなり、わざわざ現地に行かずとも遠隔から効率的に業務ができるようになったという。