自分たちと同じようなフェーズの企業では、同様の課題を感じているところも多いのではないか。試しに周囲に話を聞いてみると、どうやら仮説が当たっていそうなことがわかった。そこからさらに30〜40社にヒアリングをしても「(上限金額を超えてしまい)カードが止まってしまった経験のある企業」が一定数いることも判明したという。

改めてニーズを感じ、そこからはpaildの開発に注力した。今年3月には前払式支払手段(第三者型)発行者として登録が完了。プロダクトに関しても通常のカード会社であればSIerなどに外注することも多い「カード決済のプロセッシング部分」を自前で作り上げ、ユーザーのニーズに柔軟かつスピーディーに対応できる基盤を整えた。

当初は昨年秋のローンチを目指してはいたので予定よりは少し時間を要したが、「時間がかかった分、より安心して使ってもらえるようなプロダクトが作れた」と柳氏は話す。

カードは出口の1つ、法人向けウォレットとして拡張目指す

ベータ版をローンチしてから約4カ月。開発前のヒアリング時点から、中堅規模の企業なども含めて「立替経費の精算」などに課題を感じている企業が多いことがわかってはいたものの、実際にサービス提供する中で顧客のペインに対する理解も深まった。

「与信だけが問題なら、発行するカードは1枚でもいいはず。でも実際に顧客の使い方を見ていると、従業員数の少ない企業であっても複数枚のカードを発行している企業が多いんですね。ウェブで数クリックするだけで簡単に何枚もカードを発行できる仕組みは他にはないので、当初考えていた以上に、そこに価値を感じてもらえているということを実感できました。自分たちとしても今後はその仕組みがあるがゆえに実現できる価値をもっと訴求していきたいと思っています」(柳氏)

自身も抱えていた「スタートアップの与信の課題」に対してもアプローチは続けていくが、日本はアメリカと比べるとスタートアップの数も少なく、市場のパイも小さい。国内ではリモートワークが広がり始めていることに加え、DXや生産性向上、働き方改革などが重要なトピックとして取り上げらることも多いため、まずはそのニーズに合わせる形でプロダクトの機能改善や他社サービスとのAPI連携などを進めていく方針だ。

paild自体は法人カードからスタートしているものの、カード自体はあくまで「ウォレットサービスの出口の1つ」であると考えており、ゆくゆくはこの出口のバラエティを広げていく計画。柳氏は「色々な業界でデジタル化が進んでいるが、お金の領域はまだまだできることが多くあります」とした上で、特にアナログな要素の残る法人決済の領域をpaildでアップデートしていきたいという。

「法人がお金を使うという観点で考えると、前工程に稟議があり、後工程には会計があるというように、(個人の決済と比べても)多くの人がイメージしているよりも幅が広いものだと考えています。自分たちは『新しい金融を切り開く』ことをミッションに掲げていますが、前後の工程にもしっかり踏み込んだ法人向けの金融サービスを作っていく計画です。特にこの領域は既存の金融機関や金融サービスも十分に巻き取れておらず、人が手を動かしながら苦労して対応していた部分も多い。自分たちの特徴はデジタルウォレットという形で法人のお金に直接触れられることなので、そこを起点に新たな価値を提供していきます」(柳氏)