また、2019年7月には東邦ガスと業務提携し、電気・ガスのインフラ領域でも最適化を進めていくことになっている。
現実社会にある大きく複雑な問題をアルゴリズムの力で解く
冒頭で挙げたAmazon Braketもそうだが、最近、さまざまな企業が量子コンピュータや量子アニーリングマシンを包括的に、同じインターフェイスで扱えるソフトウェアを提供しはじめた。ただ、山城氏は「いずれも研究者向けで、それぞれのハードウェアに簡単にアクセスできるプラットフォームにとどまっています」と話している。
量子アニーリングマシン向けに数式を変更するには経験や知識が必要だが、Jij-Cloudの特徴はチューニングの必要なく最適化問題を扱うことができるということだ。
「事業会社が量子アニーリングマシンを使うとき、ノイズの問題の解決や埋め込みと呼ばれるような操作は研究者や開発者が行わなければなりません。数式のパラメータ制御などはまだ技術的に研究者の範疇にある。それをアルゴリズムでオートメーション化して、通常のコンピュータを扱うような感覚で量子デバイスや最適化マシンを扱えるようにするのが我々の強みです」(山城氏)
事業会社に対しては、ハードウェアレイヤーから開発者レイヤー、さらにはもうひとつ上のアプリケーションレイヤーに近いレイヤーをサポートできるようなクラウドサービスとして提供することを目標としている、と山城氏は述べている。
「例えば物流ソリューションや信号機制御システムの裏の基盤として、実はJij-Cloudのソルバー(最適化ツール)が動いているというような構造を考えています。こうした上位レイヤーでは事業ドメインの知識が必要となるので、そこは現在、事業会社と一緒に作っているような形です」(山城氏)
もうひとつ、山城氏はJijが扱う最適化問題の規模と複雑さについても言及する。
「最適化問題には規模の大小があります。また問題の複雑さもさまざまです。我々が対象にしているのは、『今、計算困難でボトルネックになっているもの』、もしくは『今後現実となるMaaS(Mobility as a Service:移動のサービス化)やスマートシティなどの大規模なサービス』で、問題のサイズが大きく、問題の複雑さも大きな領域です」(山城氏)
既存のアルゴリズムやソフトウェアでも、問題のサイズが中規模であれば、複雑な問題でも比較的解けるようになっている。また問題がそれほど複雑でなければ、サイズが大きくても解くことができる。しかし、現実の社会に現れるような複雑でサイズも大きい最適化問題を解くことは苦手としている」と山城氏はいう。