「2019年12月、台湾のソーシャルメディアで中国・武漢で新しいウイルスが話題になっていました。ですから、医療機関はすぐに武漢から台湾に向かうフライトの乗客に対して検疫を開始することを決めました」(タン氏)

その意思決定を下したのは、1月1日。「これは世界よりも、少なくとも10日は早かったのではないでしょうか」とタン氏は胸を張る。その背景には、2003年に大流行した前回のコロナウイルスSARS(重症急性呼吸器症候群)の教訓がある。「毎年訓練を実施してきた成果です」とタン氏は語る。

また、公平についてはマスクの配布でわかる。まず台湾政府はマスクの生産体制を、1日200万枚から10倍の1日2000万枚体制に整備した。だが、それをいかに公平に配布するか、が課題となっていた。単純に販売するだけでは日本でも起きたようにマスクの買い占めが発生してしまうかもしれない。そこで台湾は国民の99.99%が持っている健康保険証を活用し、これをかざすことで2週間分のマスク(9枚、子供は10枚)をもらえるようにした。実はここに、”楽しい”の要素もある。

「3つのF」で抑え込みに成功──オードリー・タン氏が語った、台湾の新型コロナ対策
タン氏は台湾のマスクマップを紹介した 画像:筆者撮影

台湾政府は、最寄りの薬局とそこにあるマスクの在庫数がリアルタイムで表示されるマスクマップを用意したのだ。

「内閣レベルでのミーティングを開き、薬局の協力をえて、薬局の営業時間、マスクの在庫を30秒ごとに更新するオープンデータを活用した仕組みを構築しました」(タン氏)

実際に列に並び、前の人がマスクを受け取ると、その薬局のマスクの在庫数は9枚減ることになる。このような仕組みは「人々がオープンなデータを信じる、という点で非常に重要でした」とタン氏は語る。

最後の”楽しい”は、チャットボットだ。これはマップの操作に慣れない高齢者などを想定したもので、チャットボットを使って位置情報からマスクの在庫がある最寄りの薬局を知ることができる。最も人気だったチャットボットがLINEで、台湾疾病管制署のLINEアカウントのフォロワーは1週間も経たないうちにフォロワーが急増した。

なお、台湾政府は国外から入国する人に対して14日間の隔離を求めるが、台湾に居住地を持たない人の宿泊施設として高級ホテルが部屋を無償提供した。さらには1日33ドルも支給。これには14日間の隔離をきちんと守ってもらう狙いが込められているが、ここでもチャットボットが活躍する。

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台湾疾病管制署のLINEアカウントはチャットボットを導入して問い合わせに対応した 画像:筆者撮影

HTC傘下のDeepQがLINEのチャットボットと連携し、AI対話ロボット「蘭医師」を開発。LINEを通じて、高齢者は正確な受診情報を得られる体制を整えた。開発・実装に要した期間はわずか1ヶ月。これにより、保健所や医療機関の担当者の負担も軽減できたという。