安全無毒で利便性の高いエンジン実現へ

 

Pale Blueでは「水」を活用した小型衛星用のエンジンを開発することで、課題解決を目指す
Pale Blueでは「水」を活用した小型衛星用のエンジンを開発することで、課題解決を目指す

Pale Blueではその打開策として、安全無毒で取り扱い性・⼊⼿性の良い「⽔」を推進剤とした3つの小型衛星用のエンジン(水蒸気式推進機、水プラズマ式推進機、水統合式推進機)の研究開発を進めている。

水を活用する最大のメリットは安全性だ。上述したように小型衛星用のエンジンに取り組む企業は世界で数十社存在し、燃費などの面ではPale Blueが開発する製品よりも優れたものもある。ただターゲット企業にヒアリングを重ねたところ、特に安全性に対するニーズが大きいことがわかったそう。Pale Blueでは強みの安全性を担保しつつ、多軸方向推進力や燃費も兼ね備えたプロダクトの実現に向けて改良を続けている最中だという。

水蒸気式エンジンを搭載した小型衛星の様子
水蒸気式エンジンを搭載した小型衛星の様子

同社以外にも水を推進剤に用いたエンジンにチャレンジする例はあったが、気液分離(液体と気体を分離すること)が難しく、結果的にエンジンをうまく動かせないことも多かった。その点Pale Blueのエンジンでは内部に「気化室」と呼ばれる真空空間を設けることで、完全な気液分離を実現。エンジンを確実に動かせる仕組みを作っている。

また従来のプラズマ式推進機で用いられていたプラズマ生成方法では消費電力が大きいことも実用化の壁になっていたが、Pale Blueは超低電力でプラズマを生成できる技術を確立しているという。

小型衛星やエンジンの研究を引っ張ってきた日本のアカデミア

Pale Blueの創業メンバー。右から2人目が代表取締役の浅川純氏
Pale Blueの創業メンバー。右から2人目が代表取締役の浅川純氏

これらのコア技術はまさに浅川氏らが研究室に在籍していた頃から試行錯誤を重ねてきた結果生まれたものだ。

浅川氏の博士号のテーマは、水を推進剤とした小型衛星推進機の研究と実応用。Pale Blueは浅川氏を中心に、指導教官であった小泉氏がCTOとして、同じく小泉研究室で博士号を取得した2人のメンバーが取締役として創業のタイミングからジョインして4人で立ち上げた。

宇宙領域のスタートアップは海外勢が多額の資金を調達して最先端の研究開発を行なっている印象もあるが、小型衛星の領域では日本のアカデミアも負けてはいない。浅川氏によると、もともと世界で初めて打ち上げと運用に成功したキューブサットは東大と東工大の学生の設計・製作によるものなのだそう。東大では同じ学科内の中須賀研究室がキューブサットの歴史を切り開いてきた。

2014年ごろからは「中須賀研の小型衛星に、小泉研のエンジンを搭載する」といった形で両研究室のコラボが活発になる。それ以来、小泉研では数々の小型衛星用エンジンの研究開発・宇宙実証を行い、この分野を牽引してきた。