ではなぜ、ほかの国ではなく日本のSaaSが投資ターゲットになっているのだろうか。そもそも、SalesforceやHubSpot、Stripeといった米国で成功したSaaS企業が日本にオフィスを構えて参入するのは、市場サイズが大きく、大企業も多いことが理由だ。日本はSaaS展開において、うま味があり、分かりやすい市場だと前田氏は説明する。

「中国市場への参入は特に米国企業にとって今は難しく、国際関係でも敏感な状況にあるため、選択するとしたら日本かヨーロッパ市場になります。日本は安定市場で、すごく伸びてはいないかもしれないけれども下がってもいない。リスクヘッジとしては、いい国だと考えられているのではないでしょうか」(前田氏)

また前田氏は「僕のバイアスもありますが、アメリカより日本の方がSaaS大国になると思います」とも述べている。

「日本では、SaaSが普及しなければならない緊急性が圧倒的に高い。アメリカは人口もまだ多いし移民もいます。米国での自動化・効率化は競争力を上げるための施策であって、生存のためではない。一方日本では、自動化・効率化を進めなければ、事業が持続しない可能性が高いのです」(前田氏)

政府・行政のデジタル化推進も追い風となって、今後はSaaSの活用場面が増え、国民もSaaSに慣れるだろうと予測する前田氏。「企業トップもこれからどんどんデジタルネイティブに変わっていきます。もう何年か経てば一気に変わるときが来るでしょう」と推察する。

SaaS普及は必然だが、質を上げなければ利用者が不幸になる

今後、日本のSaaSはどうなると前田氏は見ているのだろうか。「ありとあらゆる業種・業界がSaaSで支えられるようになり、水や電気のようなインフラになる」というのが前田氏の答えだ。

「現在の日本のSaaS市場規模は5500億円と言われていますが、もっと大きくなるでしょう。何年かかるかは分かりませんが、何兆円規模になることは想像できます。そういう意味では楽観的ですし、SaaSには必然性を感じています」(前田氏)

一方で「日本では、SaaS導入の緊急性が高いがゆえに、サービス、営業、サポートの質を下げようと思えば下げられる。需要が高いので、組織のレベルが上がっていかない可能性があることが気がかり」と前田氏は指摘する。

「やはり、一番いいサービス、世界で通用するようなクオリティのものを作っていきたい。売り方についても、本当に顧客を優先して、顧客のことを思って販売し、場合によってはフィットしない顧客はお断りするようなことも重要だと思っています」(前田氏)