ジムを運営するオーナーは今、顧客の健康・衛生面にかなり注力しており、無駄な業務をなくすことで消毒などに時間を割こうというモードになっていることもあり、業務の見直しが進んでいるようだ。
さらに経営者にとっては顧客の安全と同時に、従業員の健康・安全にかかわる事項も優先度が高くなっていると前田氏は指摘する。
「SmartHRや会計クラウドなども、人事労務担当者や経理担当者が出社せずに仕事ができるということで、導入が進んでいます」(前田氏)
「AIが仕事を奪う」のではなく「AIがないと経済の維持が難しい」
日本で最近登場しているSaaSには、どのような傾向があるのだろうか。前田氏は、日本でSaaSが登場した2010年前後のサービスは、会計クラウドやリサーチ、請求書管理などの業務でのユースケースが多く、「ホリゾンタル(業界横断型)だった」と分類する。freeeやマネーフォワード、ユーザベース、ラクスといった企業のSaaSがそれに該当する。
その後、2015年ごろから増えてきたのが「バーティカル(業界特化型)SaaS」だ。「例えば建設業界に特化したアンドパッドや、食品工場などの現場管理に特化したカミナシ、教育業界のatama plus(アタマプラス)、薬局SaaSのカケハシなどは、2015年以降にサービス提供を開始したSaaSスタートアップです」(前田氏)
そして2018〜19年あたりからは、特化型サービスにAIを応用したものが現れた。「RevCommや、カラクリ、素材開発の効率化サービスを提供するMI6など、AIを活用した自動化・効率化というのが、直近のSaaSの大きなテーマではないでしょうか」(前田氏)
「この流れは引き続きあると思う」と前田氏。「BPO(業務の外部委託)サービスが行っている業務も含めて、人の手がかかっている業務はまだまだあります。そういった業務を置き換える特化型SaaSは今後も出てくるでしょう」と推測する。
コロナ禍で事業継続・コストカットを意識する企業が増えたことも、自動化・効率化をサポートするSaaSの伸展に影響しているようだ。「会社によっては10人単位、ともすれば100人単位での効率化が可能なAI、SaaSもあるので、コストカットはかなり期待できます」(前田氏)
AIの隆盛とセットでよく語られるのが「AIが仕事を奪う」という話題だ。前田氏はしかし「ある意味、AIがないとこの経済を維持するのは難しいと思います」と述べている。
「労働人口は減っていますが、消費の需要が特に減っているわけではありませんし、自動化によってむしろ、よりクリエイティブな業務にみんなが時間を割くことができたり、顧客と密な関係を持ってサービスを提供できるようになったりする効果の方が大きい。仕事を奪うというよりは、人材を別のところへアロケーション(配置)していく動きになっていくんだと思います。すでに今でも人が雇えない、足りないという声は聞こえてきます。できる限り少ない人数で、同じぐらいのビジネスインパクトを出せる方法を、がんばってみんなが考えているのが今の状況です」(前田氏)