創業から3年目を迎えた2015年。須藤氏は同年末に自身のブログで「今年は、ずーっと苦しい、苦しんだ一年だった」と1年間を振り返っている。

ブログでは特に「苦戦した米国事業」「プロダクトの方向性」「従業員のモチベーション低下」を挙げているが、米国では赤字がかさみ、国内でも常に困難に直面する日々。チームから離れるメンバーもいた。

「スタートアップの最初の3年間は『魔法の3年』だと思うんです。始めたばかりの頃は事業もひたすら伸びるだけで、サービスの解約などもそこまで発生しません。メンバーのモチベーションも非常に高く、チームの熱量もある。問題は3年が経ってその魔法が解けた後、さまざまな困難に直面する中で、どれだけ本領を発揮して乗り越えていけるかです」(須藤氏)

Kaizenでも創業から2〜3年が経過したあたりから壁にぶつかることも増え、それまで以上に苦労したという。プロダクトだけでなく組織の課題も生まれ、いわゆるハードシングスの連続だった。

「残念ながらドラマのような一発逆転劇なんて、そうそう起きない。特に自分たちはBtoBのビジネスなので、何かをきっかけにドカンとユーザーが増えるとか、劇的に状況が変わるということも基本的には望めません。唯一の道は、その時にできることを毎日必死にコツコツやっていくことだけでした」(須藤氏)

 

既存顧客の解約、米国事業の大赤字でも新規事業に挑戦する“狂気”

そんな「魔法が解けた」状況下において、2016年に独自の発注システムと外部のクリエイターネットワークによって“1本5営業日、5万円から”動画広告を制作できる「Kaizen Ad」を立ち上げたことは1つの分岐点になった。

当時は既存顧客の解約が発生するなど、プロダクトの方向性に頭を悩ませていた真っ只中。おまけに米国事業も大赤字で事業の立て直しが必要な時期だった。そんなタイミングで「Kaizenは気が狂っているから、新規事業をやり始めた」と須藤氏は振り返る。

「株主や周囲からも反対されました。それはそうですよね。お金がなくなりそうですという状況で新規事業をやろうというのだから、『はぁ?何を言っているの』と。でもそこは断固として譲れなかった」(須藤氏)

現在は複数のサービスを展開し、今後さらなる成長も見込む動画事業。2016年当時、周囲から反対の声もある中で新規事業としてスタートした
現在は複数のサービスを展開し、今後さらなる成長も見込むKaizenの「動画事業」。2016年当時、周囲から反対の声もある中で新規事業としてスタートした。画像はKaizen Platformの公式サイトより

ウェブサイトのA/Bテストの事例を積み重ねる中で、動画を埋め込むとCVR(コンバージョンレート)が良くなることが数字にも現れており、コンテンツが動画になることのインパクトを肌で感じていた。その上、すでに米国では様々なシーンで動画の需要が高まっている。いつかは日本にもこの波がくるという確信はあった。