「1962年に出版された『流通革命 製品・経路および消費者』(中公新書)で東京大学教授の林周二氏が説いた『問屋無用論』に、当時の経営陣が危機感を抱いたのが、メーカー部門立ち上げのきっかけです。問屋無用論とは、これからの卸売業は付加価値をつけないと成立しなくなるというものです。当時の経営陣は『問屋はもういらなくなってしまう』と不安を感じました。そこで誕生したのがメーカー部門です」

こう説明するのは2018年に代表取締役に就任した松浦氏だ。同氏も就任以来、かつての経営陣と同じようにメーカー部門の拡充に注力している。なぜならピップの売上は今でも約95%を卸売業が占めるからだ。そこで卸売業を進化させつつ、メーカー部門も強化し、両輪で会社を運営することが必要だと同氏は考えた。

ピップはエレキバン以外にも、1999年より女性向け着圧ソックスのブランド「スリムウォーク」を、2019年よりスポーツやeスポーツのブランド「プロ・フィッツ」をそれぞれ展開するなど、新たな顧客層の獲得に注力してきた。そして今年10月に先行販売を開始したジースピナーでは、新たに“ガジェット好き”なアーリーアダプターの獲得に挑む。

ジースピナーは「磁気治療器に関する知見の総結集版」

冒頭でも説明したが、ジースピナーはピップがこれまでに開発した製品の中で最もハイテクだ。ジースピナーは独自開発の専用モーターを搭載し、強力磁石を1分間に6500回転させる。筋肉細胞に直接作用するため、広く深く血行を改善する。使い方は簡単で、電源を入れ、コリが気になる部位に装着するだけ。15分経つと自動で電源がオフになる。

「ピップ ジースピナー」を装着するイメージ
「ピップ ジースピナー」を装着するイメージ 以下、すべての画像提供:ピップ

ブランド戦略本部でプロダクト開発を担当する岡本健太氏は「ジースピナーはピップがエレキバンを発売してから積み上げてきた磁気治療器に関する知見の総結集版です」と話す。

開発の際には、肩や腰をはじめ、腕や脚など曲線の多い部位に装着しても同じ回転力を保てるよう、試作を重ね、スペックを追求。どのような角度でも磁石が1分間に6500回転する構造にするため、試行錯誤したという。なお、装着する際には付属のテープを使い、充電には付属のMicro USB Type-Bケーブルを使う。

「ピップ ジースピナー」本体と付属品
「ピップ ジースピナー」本体と付属品

ピップでは2003年よりジースピナーの原型である「ピップ イーバン」(以下、イーバン)という製品を販売していた。イーバンもジースピナーと同様に、磁石を電池で高速回転させ、コリを和らげるというという製品だった。

イーバンの販売数は著しく良くはなかったため、廃盤となったが、廃盤後も使い続ける根強いファンも多かったという。そこで、「より使いやすい製品を再販売すれば、根強いファンから喜ばれ、新たな顧客層も獲得できるだろう」という考えのもと、廃盤直後からジースピナーの開発に取り掛かったのだという。