取材の冒頭、山野氏は緊急事態宣言下の会社の状況について、こう振り返る。
「昨年2月に感染拡大のニュースが報道され始めてから業績に少しずつ影響が出るようになり、3月に臨時休校要請が出てから売上が半減。そして(4月の)緊急事態宣言の発令で外出自粛が要請されてから需要がなくなり、売上がゼロになりました。当時は毎日ゼロが記録され続けるグラフを見ながら、ただ呆然としていました……」
「組織が空中分解したとか、売上が踊り場に来たといった問題をブレイクスルーさせる知見は多くの経営者が蓄積していますが、『コロナで市場がなくなる』という経験は誰もしたことがありません。当然ですが、その問題に対する知見はどこにも畜歴されていないので、相談相手もいない。孤独を感じ、絶望的な状況でした」(山野氏)
先行きが全く見通せず、倒産するかもしれない状況──そうした中、山野氏はすぐさま2つの決断をする。それが「従業員の雇用を守ること」と「会社・サービスを存続させること」だ。そして3月中旬頃、従業員の前で2つの決断を何がなんでも成し遂げる、と宣言した。
「アソビューでは、常に会社の業績を誰でも見られる状態にしているので、3月中旬には売上が絶望的になっているのはみんな知っていて、『会社がヤバいかもしれない』という空気が立ち込めていました。だからこそ、いち早く会社の方針を共有しなければいけない。そう思い『従業員の雇用は必ず守る』『会社・サービスを存続させる』という2つの目的を成し遂げるためにやれることは何でもやる、と宣言しました」(山野氏)
「在籍出向」の仕組みで従業員の雇用を死守
宣言後、山野氏は同じ経営者であり、友人でもあるランサーズ代表取締役社長CEOの秋好陽介氏、オイシックス・ラ・大地代表取締役社長の高島宏平氏、Retty代表取締役CEOの武田和也氏らに連絡。彼らに「会社がヤバイ状況である」と共有し、再起の方法を色々とブレストする中で、生まれたアイデアが出向制度を活用した「従業員シェア」だった。
多くの企業が業績の悪化に伴い、解雇や雇い止めをする中、アソビューは出向元の企業の従業員として籍を残したまま、他の出向先企業で働く「在籍出向」を実現。災害時に一時的に雇用を維持できない企業と、災害時だからこそ一時的に雇用を必要とする企業間で人材が異動できるようにした。実際、在籍出向によってアソビューの全従業員120人のうち、24人が出向先で働くことになった(編集部注:雇用契約は両社で持ち、業務遂行における指揮命令権は出向先が有する。災害時の費用負担は出向先が負担する)。