公安が絶縁を即決する人間の特徴

 縁を切るべき人の第1の特徴は、お金にルーズな人です。皆さんもこんなことを言われたことはありませんか。

「次はおごるから、今回の飲み代を立て替えてくれないか」

 些細なことかもしれませんが、自分の協力者がこんなことを言い始めたら関係を切る方向で動きます。なぜなら、こうした人はお金のトラブルを引き起こす可能性があるからです。

 我々は、ターゲットの情報を聞き出すために協力者に謝礼を払うことがあります。その際に、「今回のネタは前回よりもすごいから謝礼を上げろ」などと言われるのは面倒です。

 さらに、「狙っている人物や組織にお前に協力していることを自白するぞ」とか「俺の後ろには怖い仲間がいるんだ」などとゆすりをかけられては任務に支障をきたします。お金にルーズな人間は、お金や人間関係のトラブルも抱えやすい。公安時代はこうした人間との関係はすぐに終わらせるように心がけていました。

 第2の特徴は、電話を受け取らないことに怒る人です。思い当たる人物が周りにいるという方も少なくないでしょう。

 実は、こうした行動はストーカーやDVの加害者と共通しています。認知が歪んでいて、相手の立場を考慮して行動することができないのです。常識的かつ客観的に判断することができなくない人物だと捉えます。

 彼らは、いざ連絡を断つときに自暴自棄になって重大なトラブルを引き起こしたりする可能性があるので、そもそも深い関係になる前に関係を断つようにしておくべきでしょう。

 そうした私個人の感覚的な判断に加えて、信頼できる情報源から入ってくる噂も加味します。その二つの評価がそろったときに、関係を切るべき人として認定します。

 関係を切るべきだとわかるのが、会って2回目でわかるのか、5回目でわかるのかという程度の差あれど、初見ではわからないと割り切る必要があります。初対面の印象では、シャキッとした外見で世話好き、なかなか好印象に見える人でも、最終的には関係を切ったという人は一人や二人ではありません。

 もちろん、確かに最初から変な人はいます。ただ変な奴だけど、情報を持ってるから取り込みたいということはありますね。そういうときは、表面だけのいい人や親友を演じます。

 そもそも私が他人に対して完全に心を開くことはありません。

 これは私の人生観の問題ですが、プライベートでも心を許せる友人は二人しかいません。ましてや、公安の仕事で心許せる人や瞬間などありませんでした。むしろ、努めて心を開かないようすることで、自分と相手の関係やその場の状況を客観的かつ冷静に分析するようにしていました。

 「子どもは目に入れても痛くない」とか「恋は盲目」とよく言われますね。主観的な感情が強い状態では、思考が曇ります。

 公安では心を開いた「ふり」をするのが仕事でした。相手が家庭の話をすれば、それと同じかそれより少し踏み込んだ話を返す。私の同僚たちで良い情報を取ってくる人はこんな感じの人が多くいました。「肉を切らせて骨を断つ」といったところでしょうか。

 しかし、「肉を切らせる」といっても本当のことを話すわけにもいきませんから、たいていは作り話。協力関係にある間は、齟齬が生じないようにすべて記憶しなければなりません。私はメモすることで情報が流出することを懸念していたので、頭で覚えるようにしていました。「骨だけ断つ」というのが、実際のところです。

 よく「聞き上手」という言葉を耳にします。人の話をよく聞く人のことを指して傾聴力があるといったポジティブな文脈で使われることが多いと感じています。しかし、本当に深い関係まで到達するためには、聞いているだけでは不十分。自己開示をすることではじめて他人はあなたに心を開くのです。

 そのときに、自慢話などをされても興ざめなので、なるべく失敗談や不幸話といったネガティブな話をしたほうが効果的です。

 他にも公安として関係を切るべきだと判断する条件はあります。

 たとえば、対象が協力に消極的になってきたり、こちらへの警戒心が強くなってきたりしてきたとき。それと、情報がつまらなくてどうでもいいものになったとき。つまり、協力関係にあることにメリットがなくなった瞬間です。 こちらが警察官であることを明かしていないケースもあるので、それがバレてしまうリスクがメリットを上回ったときは徐々に関係を切る方向に動きます。 

 当然ですが、提供される情報に嘘とか勘違いが入ってたら、度合いにもよりますが、関係を切ります。どちらも偽情報を掴まされるリスクは変わりませんが、特に嘘をつくケースはこちらを騙そうとする意思があると判断できるので、勘違いとは桁違いに重く受け止めます。

 嘘をつく人はなぜ嘘をつくのか。もう理由はさまざまですが、通底するのは保身。自分を守ろうとしているのです。例えば、こちらが公安だと見抜かれてしまって、組織側からディスインフォメーション(偽情報)をつかませろと言われて来たかもしれない。