だが、iPhone向けのアプリがMacでそのまま動作するようになると、アプリの充実度は一変するだろう。表示解像度の変化への対応など技術的な課題はあるが、「iPhoneと同じCPU」をMacに載せてしまうことで、Mac向けアプリの品揃えを大胆に拡充することができる。

 このほかにも、CPUをIntelからArmベースに切り替えることで、得られる恩恵は多い。Armはもともとスマホ向けCPUとして発展してきただけに、省電力性能が高い。同じ処理をこなすにも、消費電力を抑えることができる。  

 また、Apple SiliconはiPhoneのCPUを基にしているだけに、モバイル通信との親和性も高い。将来的にMacbookシリーズが5G通信をサポートする際にも、Apple Silicon搭載モデルの方が高いパフォーマンスが出せるだろう。

Apple Silicon搭載のMacでは、CPUのみならずGPUやAIチップなどにアップル独自の技術を取り入れ、低消費電力と高性能の両立を狙う アップルの配信動画より

不振が続くWindowsのArm展開

 ArmベースのCPUでパソコンを動かそうとしているのはアップルだけではない。PC向けOSにおけるライバル・マイクロソフトは、ArmでのWindowsの展開を何度も試み、大方は失敗に終わっている。

 パソコン版WindowsでのArm系プロセッサーへの挑戦は、2012年に始まった。マイクロソフトの自社設計タブレットSurface(初代モデル)だ。このタブレットパソコンは、Windows 8を基に開発されたWindow RTという特別なOSを搭載していた。このOSはWindowsながら従来のデスクトップPC向けアプリ(x86・Win32アプリ)は利用できず、Armプロセッサーに最適化された専用のアプリのみが動作した。MicrosoftはWindows RT向けのアプリストアの品揃え確保に苦労し、結局Surfaceシリーズは3世代目の「Surface 3」からIntel CPUを採用し、Windows RTは早期にサポートを終了することになった。

 その後、マイクロソフトはWindows 10世代で、Arm CPUに再挑戦している。「Windows 10 on ARM」と名付け、モバイル通信に繋ぎっぱなしでも使えることを売りにした低消費電力のノートパソコン・タブレットを展開している。

 このArm版Windows 10でマイクロソフトは、スマホ向けチップセット大手のクアルコムとCPUを開発し、Lenovoなどサードパーティのパソコンメーカーからの製品展開も奨励している。さらに従来のWindowsアプリとの互換性も一部で持たせており、x86アプリなら、そのままArmでも動かせるような仕組みを取り入れた。一方で現在のWindows向け環境で標準となっている64ビット対応のデスクトップ(Win64アプリ)は、現時点ではArm版Windows 10では実行できない。