これが従来の売り切り型だと、システム側の仕様を理解しているのも開発権限を持っているのもベンダー側だが、最終的な意思決定は事業者側で行っていた。何か改善点が発生した際にはベンダーに逐一連絡して対応してもらうことになるものの、そのためには事業者側で決済など必要なステップを踏まないと改修が一向に進まない「重たい構造」になっていたという。
「ワンストップショッピングのオンライン化」支えるインフラへ
6月からイトーヨーカドー ネットスーパーアプリの実運用を始めて2カ月強。ウェブ版とアプリ版で細かい仕様や使い勝手が異なるため、当初はユーザーから戸惑いの声も多く届いた。アプリのUXの方が優れていたとしても、ウェブサイトに慣れていたユーザーにとっては馴染みがなかったからだ。
ただ上述したようにカスタマーサポートもアプリのアップデートも全て10Xが受け持っているので、迅速かつ適切な対応を取ることができた。直近ではウェブに比べて購入頻度や顧客単価、翌月の購入継続率が高くなるといったように、ユーザーの満足度向上に貢献できていることが数字としてわかるようにもなってきた。
10Xではその事実を公開しているため、事業へのインパクトを期待して問い合わせに至る企業も多い。Stailerローンチ後、すでに70社以上から連絡があり、イトーヨーカ堂に続く取り組みも水面下で進めている状況だ。
Stailerの仕組みがあれば大手事業者はもちろんのこと、予算やリソースが限られた小規模なスーパーやローカルなスーパーでもネットスーパーにチャレンジできる可能性が広がる。従来はスタートするだけで数億円規模の初期費用が必要だったところがゼロになるわけなので、それだけでエントリーのハードルがグッと下がる。
ネットスーパーに必要な基盤を1つのサービスにまとめあげ、始めやすいプライシングで提供するという意味では、StailerがやろうとしていることはSaaS(Software as a Service)ならぬ「ネットスーパー as a Service」とも言えそうだ。
矢本氏自身、スーパーを頻繁に利用するようになってから「スーパーの価値は数十もの商品を同時にまとめ買いできる、ワンストップショッピングにあること」に改めて気づいた。それを支えているのが膨大なSKUと目的の商品が探しやすい店舗の設計であり、小売事業者はそれを分かっているからこそ、長年に渡ってそこに投資をしてきたという。
「各事業者は店舗体験の設計に対しては膨大な知見を持っています。でも、同じような体験をデジタル上で再現することに関しては誰も満足にはできていません。デジタルで豊富なSKUの中から一度に20〜30点の商品をバスケットに入れて購入するための最適なUXも、それを支えるサプライチェーンやシステムもない。Stailerでは『ワンストップショッピングのオンライン化』のためのインフラを作っていきたいと考えています」(矢本氏)