同サービスでは一般的なネットスーパーとは異なり、置き配かつ早朝便専用に絞った。23時までに注文した食材が、翌朝の7時に置き配形式で自宅に届くようなモデルだ。
置き配にすることでデリバリー時の最後の受け渡しの手間と時間を削減。都市部の中心エリアに限定して展開する計画だったため、タワーマンションなどのエレベーターが込み合わない早朝に配送することで、配送効率アップを狙った。
矢本氏によると、このアイデアは韓国で事業を急拡大する「Market Kurly(マーケットカーリー)」を参考にしたものなのだそう。生協やネットスーパーともバッティングしないため、その点でも最適な仕組みだと考えた。
約3カ月をかけてプロダクトを準備した後、いよいよサービスを開始。牛乳配達屋と交渉して冷蔵庫のスペースを空けてもらうなど、地道な取り組みを進めてようやくスタートしたものの、矢本氏はわずか1カ月でクローズを決断することになる。ユーザーをほとんど獲得できなかったからだ。
「掘り下げていくと、結局のところ自分たちに信頼がなかったことが1番の原因でした。普段自分が口に入れるものをどこで買っているか考えてみると、基本的に知っている会社からしか買っていない。どこの誰かも知らない企業から食品を数十点も買うのかというと、答えは明確にノーでした。信頼がないからどれだけクーポンを配ったところで意味がない。ほとんどの人はそもそもサイトにすら来てくれなかったんです」(矢本氏)
ニーズが掴めない状態でサプライチェーンに投資をするのは難しい。第一、事業の構造的にもグロースを目指すとなると大掛かりな資金調達が必要だ。そもそも自分たちの強みが活きる事業でもなかった。
過去の体験が繋がって生まれたStailer
タベリーのオンライン注文機能、小売事業者とのディスカッション、そしてタベクルの失敗──。数カ月に渡って複数のプロジェクトを同時並行で回し続けた結果、この3つの体験から得られた解として、矢本氏の頭の中で徐々に1つのアイデアが構築されていった。
それこそが現在10Xが注力するStailerだ。小売事業者が必要とするシステムを1つのサービスにまとめて提供する。その中で自分たちはエンドユーザーに良質な体験を届けるためのインフラを作る役割を担う。
「タベリーを始めた頃から、本気でオンライン生鮮事業に挑戦するのであれば、いずれはネットスーパーのアプリを作るべきだとは思っていました。ネットで物を売る際に大事なのはECに直接来てもらうことであり、直接物を売買できる場所を作る必要性を感じていたからです。ただ、タベリーでしっかりとユーザーの課題を解くものが作れれば、その先にいろんなマネタイズ手段があるのではないか。そのような期待から広告や課金などいろいろと試してみたのですが、実際はなかった。少なくともこの方向の延長にあるのは1000億円規模の大きな事業になるものではない。それが自分の中で確信に変わったことも、Stailerに舵を切るきっかけになりました」(矢本氏)