サービスを公開したのは2012年11月。当時はLivertyの1プロジェクトという扱いだった。SNSや一部のオンラインメディアに露出した程度だったが、公開から約3週間で7000店舗以上のECサイトが作成され、流通総額は700万円を超えていた。

 EVの松山氏に見せたところ、「日本版のShopify(カナダ発のECサイト作成サービス大手)みたいでおもしろい。これは会社にして、自ら代表をやるべきだ」と起業をすすめられた。家入氏も賛同し、共同創業者として参画するかたちで法人化を進めた。

「僕は当時、別に起業したいとは思っていなくて。サービスを作っていればよかったんですが、たまたま尊敬する人たちと一緒にいたら起業することになっていました。だから、尊敬する人たちの信頼のためにも、起業家として必死にならないといけないと感じていました。」(鶴岡氏)

 当時大学生で、資本施策についての知識もなかった鶴岡氏。ただ「将来的に自分が困らないようにしてほしい」とだけ家入氏、松山氏に伝えて、方針はすべて2人任せて、BASEの開発に注力した。実際、法人登記から投資に関する交渉まで、ほとんどすべての業務をEVのスタッフが支援した。

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“小さな加盟店を取りに行く”を信じるチームに恵まれた

 その後は資金、人事、システムと、何度ものトラブルを乗り越え、サービスを大きくしていったBASE。2014年には三井住友カード、ソニーペイメントサービスと組んで、独自の決済サービスを提供。2015年にはオンライン決済サービスの「PAY.JP」も開始するなど、提供するサービスの幅を広げ、出店数・流通総額ともに拡大させてきた。

 同社を支援する投資家も増えた。サイバーエージェントやSBIグループ、丸井グループ、メルカリ、マネーフォワードなどの事業会社や、VCのグローバル・ブレインなどが同社に出資をした。

 「単純に人として尊敬できる人、良いプロダクトを作っている人が好きなんです。それこそメルカリやAbema TV、Amebaを作っている人たち。SBIは金融ですが、小さな個人をエンパワーするという意味ではBASEと同じような考えを持っています。そういう人に応援して欲しくて、ピンポイントで話をしに行きました。初めて会って『投資してください』と言うようなケースはほとんどありません。もともと知り合いだった人に、投資をお願いしに行くことばかりです」(鶴岡氏)

 BASEは、初期費用や月額課金を無料にすることで個人やSMBを集め、決済手数料で売り上げを立てている。サービスを開始した頃は、決済額も小さく、店舗数のボリュームもなかったため、大きなビジネスにはならなかった。競合サービスは初期費用や月額課金を取っていたため、同様のビジネスモデルにして売り上げを高めようという誘惑に駆られることもあったという。だがそれをやってしまうと、最初に目指した「小さな声を拾い上げる経済圏」を作ることができない。ジレンマに悩む状況は続いたが、「事業的に耐えないといけないところを、チームのみんなも、株主も、信じてくれた」と、鶴岡氏は振り返る。