従来のロボットは主に工場内での産業利用が想定されていた。産業ロボットに求められるのは、強い衝撃に耐える堅牢性や、作業を正確にこなす高度な制御技術だ。しかし、近年のロボットには人とのコミュニケーションや、日常生活の補助としての役割も期待されている。
日常で利用されるロボットは、必ずしも硬くて複雑な機体ばかりが有用とは限らない。むしろ、人と触れても傷つけない柔軟なボディや、親しみやすさが求められる(ディズニー映画に登場するベイマックスは、その好例だろう)。また、多様な環境に対応するためには、生き物の動きを参照するのは有効な手段だ。
柔軟性や親しみやすさを追求して開発されたものとしては、ユカイ工学が開発したしっぽ型のセラピーロボット「Qoobo(クーボ)」、生き物を参考にしたものには東京大学情報理工学研究科で特任講師を務める梅舘拓也氏らが開発するイモムシ型ロボットなどがある。
「Amoeba GO-1は、階段の昇降ができる世界初のソフトロボットで、移動式ソフトロボットの実証実験をここまでの規模で実施するのはおそらく今回が初めて。生活空間で利用されるロボットとして、親しみやすさや安全性も取り入れていきたい」(青野氏)
アメーバの性質を生かせば効率的な配送が実現する?
今後、Amoeba GO-1のアップデートと並行して、青野氏は大学での演算処理技術の開発にも注力するという。実は、これはAmoeba GO-1とは違った形で将来の宅配にアプローチするものだ。
彼が目指しているのは、「巡回セールスマン問題」の解決。これは「全ての都市を1度だけ訪問して戻ってくる巡回ルートのうち、移動距離が最小のものを探す」という組み合わせの最適化を求める問題で、都市の数が8の場合でも可能なルートの総数は、なんと2520通り。10都市なら10万通り以上、15都市なら400億通り以上のルートが存在し、30都市を巡る最適解は、現状のスーパーコンピュータでは億単位の年数がかかるため、実質解けないという。
この解決に関係するのが、アメーバだ。アメーバには嫌いな光を避けつつ、体を最大化させようとする性質がある。この体の伸縮メカニズムを上手く取り入れれば「そこそこ効率の良い答え」を既存のスーパーコンピュータより早く導き出せるかもしれないという。これを来る自動運転時代の配送トラックなどのオペレーションに活用するのが、青野氏の狙いだ。
「大きな渋滞を起こさないために必要なのは、最短効率の正解ではありません。そこそこ効率の良い答えを素早く見つけるという、現代のコンピュータの欠点を補完する存在になれば」(青野氏)