カーボンニュートラルで
水素が果たす役割は限定的

 JR西日本は2021年4月、環境長期目標「JR西日本グループ ゼロカーボン2050」を策定し、JR西日本グループ全体のCO2排出量を2030年までに2013年度比46%減、2050年までに「実質ゼロ」を目指すと表明。今年5月には2025年までに35%減、2030年までに50%減と目標を上方修正した。

 これは政府の2050年までにカーボンニュートラルを達成するという宣言に応じたもので、2013年度の排出量を基準とするのも政府の目標に倣ったものだ。JR西日本グループの2013年度の排出量は約215万トン。現時点で約150万トン強なので、2030年まであと6年で40万トン近く、そこからさらに20年間で100万トン以上削減する必要がある。

 広く知られているように鉄道は環境に優しい乗り物だ。国土交通省によれば、輸送機関別輸送量(人キロ)当たりのCO2排出量は、自家用車が168グラム、航空機が109グラムなのに対し、鉄道は19グラムと格段に少ない。これをさらに削減していくのだから簡単な話ではない。

 千田課長は「成り行きで達成できる目標ではないので、いろいろな施策を組み合わせながら取り組む必要がある」として、「新技術による鉄道の環境イノベーション」「省エネルギーのさらなる推進」「地域との連携による脱炭素社会実現への貢献」の三本柱で進めていくと語る。

 ただし、鉄道事業者において、「水素」がカーボンニュートラルの中で果たす役割は限定的だ。というのも使用するエネルギーの総量で見れば、車両数や運行本数が圧倒的に多い電化路線がほとんどを占める。JR西日本の列車運転に要するエネルギーのうち、約97%が新幹線・在来線の電車であり、気動車は約3%にすぎない。CO2の排出量で見ても5%程度だそうだ。

 環境長期目標のメインも、太陽光発電所の新設など再生可能エネルギーの利用拡大と、車両・駅の省エネルギー推進や、ブレーキ時に発生する回生電力を蓄電し他の列車に給電する設備の導入などが中心で、気動車のカーボンフリー化は「イノベーション」枠だ。

 気動車のイノベーションは既に進みつつある。旧型の気動車は自動車と同様にエンジンの動力で車輪を回して走るが、近年はエンジンを発電機として使い、電車と同様にモーターで走る電気式気動車が続々と導入されており、旧型と比較してCO2排出量は半減した。

 電気式気動車は電力源をエンジン以外に置き換えれば、基本的な構造はそのまま脱内燃機関が達成される。選択肢はいくつか考えられるが、第一候補はバッテリーだ。前回の記事でも簡単に触れたが、これは「蓄電池電車」と呼ばれ、JR東日本烏山線の「EV-E301系」電車、男鹿線の「EV-E801系」電車、JR九州若松線・香椎線の「BEC819系」電車などが実用化されている。

 しかし、現状ではバッテリーの技術的制約から、気動車と同等の走行性能を確保できないため、上記車両はいずれも電化された本線をパンタグラフで充電しながら走行し、非電化の支線を電池で走っている。中長距離を高速運転する気動車を本格的に置き換えるには、水素を燃料に発電する燃料電池を用いるしかない。

 そこで2030年以降の第二段階での投入を前提に燃料電池車両を開発し、まずは廃食用油や微細藻類などCO2の吸収と排出が相殺される素材から製造される「次世代バイオディーゼル」を現行気動車に使用し、CO2排出量実質ゼロを実現するというのがJR西日本の戦略だ。