なぜ日本は教育へ
投資をしてこなかったのか?
鈴木 1つは、時代が変わりつつある中、日本の教育が画一教育を辞められなかったということですね。もう1つは、やっぱり人材育成に投資をしなかった。
例えば台湾は、科学技術大学を国が40校建てているんですよ。台湾は今、大学進学率が95%です。アメリカも韓国も70%。日本は50%です。
また、台湾や韓国は、理工系の学生は1学年に10万人いて、日本も10万人です。アメリカは43万人です。人口2500万人の台湾と人口5100万人の韓国が10万人、人口3億5000万人のアメリカが43万人。一方で日本は人口1億2000万人なのに、10万人しか育てられていないんです。
田原 日本は人口に対して理工系の人材がそんなに少ないのですか。
鈴木 そこに投資をしてきませんでしたからね。ある意味、当然でしょう。理工系大学での人材投資というのは、1人年間320万円かかるんです。文系は80万円です。理工系に投資しようとすると、追加で年間、3000億円ぐらいかかります。そこに投資してこなかった。
田原 日本の一番の問題は、教育へ国が投資する額が、先進国の中でもずば抜けて少ないですよね。なぜなのでしょうか。
鈴木 私もその状況を変えようと思って、「コンクリートから人へ」を掲げて国会議員になりました。
私が文部科学副大臣の時は、文科省の予算が、国交省を上回ったんですよ。公共事業予算をカットし、国交省の予算を3割削って、教育予算を1割上げたのです。私ほど教育予算を増やすことに努力し続けた人間は日本でいないと思うのですが、結局、それがあまり支持されませんでした。
田原 なぜ支持されなかったのですか。
鈴木 私が社会人になった1986年の時は、子どものいる世帯が46%でした。2022年のデータでは18%です。教育関係者はもちろん教育が大事と思っています。でも、多数派である82%の子どもがいない世帯の方々から、消費税を上げること、または、年金を削ることの理解を得ることができないと、教育予算は増えないんですね。
田原 なるほど。
鈴木 韓国は教育税というのを導入し、その税収を基に、教育へ投資をしています。台湾も教育にきちんと投資をしています。なぜ日本が教育に投資できなかったかというと、高齢化によって子どもがいない世帯が増え続けているということですね。
私が政調(政策調査会)副会長の時に、社会保障制度改革国民会議というのを作りました。そして、野田佳彦さん(当時、内閣総理大臣)と、谷垣禎一さん(当時、自民党総裁)、山口那津男(公明党党首)が話し合い、「年金を政争の材料にするのはやめよう」ということで、いったん、合意しかかりました。でもその後、谷垣さんは自民党総裁を降ろされてしまいました。
毎年、4000億円を投資できれば、理工系やデジタル、グリーンなどの人材育成が可能になるのです。4000億円というのは、社会保障関係の歳出38兆円を1%削ればいい。きちんと国民に説明すれば、きっとわかってくれるはずだと思うのですが、その議論が進まないまま、10年、20年とたってしまいました。
田原 なぜ、議論が進まなかったのですか。
鈴木 政治が年金問題をいじると、いつも負けていましたからね。逆に2009年に民主党が政権を取ることができたのも、(衆議院議員で元・厚生労働大臣、元・年金改革担当大臣の)長妻昭さんが年金問題に力を入れようとしたことが、国民に大きく響いたわけですから。
今のようなシルバー民主主義になると、次の世代への投資、人材投資というのは、なかなか難しい状況です。「政治家として教育をやっても票にならないよ」というのはよく言われました。「それなら私は別に政治家をやらなくていい」と言いましたが。