工業社会の恩恵に感謝しつつ
GDP重視を卒業してウェルビーイング重視へ

おふたりPhoto by Teppei Hori

鈴木 「脱近代」というのはよく耳にしますよね。でも、脱近代はことごとく失敗しているわけです。

田原 何で失敗したのでしょうか。

鈴木 近代化は、私たちに数多くの良い恩恵をもたらしました。

 冷蔵庫が普及したことで、日本国内の胃がんの罹患(りかん)率はだいぶ下がりましたし、飛行機や新幹線が整備されたことで移動が便利になりさまざまな人に会えるようになりました。

 例えば、中学校や高校に母校愛を持ち、先生にも感謝している。でもいつまでも生徒でいるわけにはいきません。卒業しなければならない。これが「卒」です。一方、その学校が嫌になったら中退しますよね。「こんな学校、もう二度と来るもんか」と。これが「脱」です。

田原 なるほど。「脱」は反体制で、「卒」は反体制ではないんだ。すごくよくわかりました。だから「脱近代」なんて言ったら、政府、つまり自民党は、大反対して、つぶしにかかる。脱近代を掲げるのは野党でしかない、と。でも教育改革というのは、政府にやらせないといけない。反体制ではないけれど、世の中を変えようと。こういうわけですね。

鈴木 そうそう、私たちは右でも左でもないんです。工業社会の恩恵に感謝しつつ、近代を卒業し、情報社会に備えなければならない。そうした人材を育成しようと1995年に始めたのが「すずかんゼミ」なんです。

田原 卒近代のためには、何をすればいいのですか。

鈴木 「工業社会」から「情報社会」へと、産業構造を変えていかなければなりません。コネクトやコミュニケーション、コラボレーション、コ・クリエーション(共創)といった、「つながり」を大切にして、豊かな関係性を構築する。人工物を作って「モノの価値」やGDP(国内総生産)を重視していた社会を、これからは「ウェルビーイング」を重視した社会へと変えていく必要があります。

ソーシャル・オーケストレーションで
ハーモニーを広げていく

おふたりPhoto by Teppei Hori

田原 これからはモノを作るだけではなく、人とのつながりがより重要になってくる。

鈴木 モノも作るけれども、これからの時代は、いろいろな人とつながって、響き合うことが大事なのです。

田原 昔からもちろん、人脈やツテは大事とされてきましたが、それとはまた違った、いろいろな人とのつながりということですね。

鈴木 違う人間がつながり、違う旋律を、違う音色で、違う楽器を使って弾くことで「ハーモニー」が生まれる。私は「ソーシャル・オーケストレーション」と呼んでいます。すると、1人では不可能だった新しいものができてくる。こうしたハーモニーを若い人たちに広げていきたいのです。

(後編「『生きていれば必ず矛盾と出あう』『AIにはない人間の本質は迷うこと』田原総一朗と鈴木寛が語る『これからの教育が育むべき力』」へと続く)