日本だけ遅れている
緊急事態条項の必要性
さて、ここまでの話を受けて馳知事に申し上げます。被災地の犯罪者について国会質問した経験をお持ちである以上、これを機に、あなたがもっと厳しい対策を考え、提案すべきではないでしょうか。
私は、震災時には人の不幸につけ込んだ犯罪者の一覧表を顔写真付きで配布し、実名で公表するのが、一番の予防策だと考えます。もちろん、プライバシー侵害の可能性があるという反論は承知の上です。
これを可能にするには、震災時に緊急事態条項を憲法に付加して規定しておくことが必要です。世界各国を見渡せば、OECD参加国(つまり、先進国で民主主義が確立されている国家)38カ国のうち30カ国が緊急事態条項を設けていて、緊急事態条項のない国は日本を含む数カ国だけなのです。そして緊急事態宣言下では、基本的権利、民主主義、法の支配といった憲法の基本原則に制約を加えることも通例となっています。もちろん、この緊急事態には戦争以外に大災害も対象とされています(国立国会図書館調査および立法考査局 調査資料)。
緊急事態の条項があれば、再発防止のために、現行犯で逮捕された人間や、詐欺をもちかけ逃亡した人間のモンタージュ写真などを、指名手配犯のように公開できる条項もつくれるはずです。あるいは、逃亡中の犯罪者の顔と手口を公開し、指名手配犯のように公開できるようにすれば、抑止効果は高いと考えられます。常習犯が多いと思われるだけに、この方法は有効ではないでしょうか。
実際、チリでは2023年の大火災時に、夜間外出禁止令など大規模な私権制限が行われ、犯罪の防止に一定の効果をあげたという記録もあります。日本では、災害救助法を基礎として、復旧、復興のためにいろいろ法律がつくられていますが、犯罪抑止の面からの立法は、あまり進んでいません。
それでも、緊急事態条項を設定しなくとも、現行の法律でもっと有効な手だてが打てるという説明もありました。たとえば、我々がよく見る指名手配のポスターは「一級犯罪者」と呼ばれ、逃亡している犯罪者が中心ですが、実は指名手配犯だけで680人のリスト(2017年のデータ)が警察内部には共有されています。それは重大犯罪に限らず「逮捕状が出ているのに逃亡している者」というのが指名手配の基準だからです。
中には、警察官の職務質問を振り切って警察官に暴行して逃亡したとか、違法カジノ店の店員が逃亡したため指名手配されているケースなどもあります(弁護士法人プラム綜合法律事務所の説明)。警察の決断次第では、緊急事態条項まで考えなくとも、被災地を狙った指名手配犯を全員公開することで警察の本気度を伝えることができ、犯罪抑止効果は上がるでしょう。