「顧問弁護士」vsリスクコミュニケーション専門家

 例えば、パワハラやセクハラという「被害」を訴える人があらわれると、「事実無根」と冷たく突き放し、結果として社会から袋叩きにされる。なぜこんな初動対応をするのかというと、法務部門や顧問弁護士がそのようにアドバイスをするからだ。

 筆者はこれまでさまざまな企業や著名人のネガティブ報道に対する対応のアドバイスを求められてきたが、必ずと言っていいほど意見が衝突するのが、顧問弁護士だ。

 と言っても、弁護士先生たちが危機管理をわかっていないとか、そういう話ではない。目指している「ゴール」がまったく違うので、そこへのアプローチ方法もまったく噛み合わないというだけだ。

 当たり前の話だが、弁護士は「法律のプロ」なので、この先にある名誉毀損などの訴訟を見据えている。とにもかくにも、そこが大事だと考えているので、クライアントに後々不利になるようなリスキーな発言をさせたくない。

 だから、今回のような報道に対しては、沈黙を貫くか、血の通っていないコメントを出して、粛々と法廷闘争の準備をする。

 一方、我々のようなリスクコミュニケーションの専門家は、後の法的闘争よりも今この瞬間、社会を敵に回してバッシングを受けないようなイメージ戦略を大事だと考える。

 だから、沈黙や血の通っていないコメントをしないようにする。事実関係に関して明言ができないにしても、ファンや仕事関係の人々に対しての気持ちを伝える。そして紛争相手に対しても心配りの姿勢を見せることで、こちらの言い分にも耳を傾けてくれるような「シンパ」を少しでも増やすことを目指す。社会に対して「情」の部分でも共感が得られるような説明をして、集団リンチされることを避けるのだ。

 もちろん、法を武器に争う弁護士先生たちにこういう話をしてもほとんど理解されない。当然、筆者の対応策は却下されて、顧問弁護士が用意した「事実無根であり、法的措置も検討します」という毎度おなじみの定型文がペラッと配布されるというワケだ。

 そういう意味では、今回の吉本や松本さんの対応は、極めてオーソドックスな危機管理だったともいえる。