組織の「バリュー」が必要になるフェーズ

佐宗 企業理念というと、どうしてもミッション・ビジョン・バリューなどが混同して語られることが多いと思います。しかし、実際にはこれには「必要なフェーズ」だったり「つくるべき順序」だったりがあるということを『理念経営2.0』では書きました。

まさに星野さんが実践されたとおり、いちばん最初に必要になるのがビジョンなんだと思います。大きな資産を持っていない小さな組織ほど、最初はビジョンを掲げるしかない。でも、会社がビジョンに向かって走り始めることで、人が集まってくる──そういう流れはよく見かけます。

星野 ビジョンを先に決めるべきだという点は同感です。ビジョンを示すことには一銭もかかりませんから、お金がなくてもできます。その後、会社として自分たちが大切にしたい「価値観」を言語化していきました。

佐宗 いわゆるバリューですね。会社に人が集まってきて「群れ」が大きくなってくると、それを一つに保つのが大変になってきます。バリューが必要になってくるのは、そういうフェーズだと思うんです。群れの内と外を区別する「境界線」をはっきりさせるわけですね。ビジョンの役割がアクセラレーターなのだとすれば、バリューはスタビライザーのようなイメージです。

星野 おもしろいですね。私の認識では、ビジョンは佐宗さんが仰ったとおり、「こっちに向かうぞ」という将来像です。一方で、私が「価値観」と呼んでいるのは、ビジョンに向かうときのあり方を「制限」するものであり、どちらかというとブレーキに近いかもしれませんね。

佐宗 なるほど! ぜひ次回はその点を深掘りさせてください。

(次回に続く)

星野リゾート代表に聞く。“持たざる経営者”ほど「ビジョン」を武器にすべき理由