企業と学生の認識のずれ
「克服すべき偏見」の中身
【偏見①】日本人の海外大学生は「みんなグローバルなキャリアを求めている」
「日本人の海外留学生は、『将来、海外に駐在して働きたい』『現地で仕事を見つけたい』と考えている」とイメージする企業の人事担当者は、意外と多い。
しかし、実際には、必ずしも海外でなく日本国内で語学や経験を活かして働きたいと考える学生も多く、まずは日本でキャリアをスタートしたいという声も多い。
なぜなら、ビザの問題があったり、専門知識や実務経験が不足していたりするため、現地での就職は非常に難しいからだ。現地の食や住環境が合わず、海外で過ごしづらいという問題もある。
【偏見②】海外生活の経験から「幅広いキャリア観を育んでいる」
毎年、アメリカのボストンで開催される「ボストンキャリアフォーラム」は、世界最大級の日英バイリンガルの就職イベントだ。このフォーラムには、海外大学生を採用したい企業が参加している。しかし、実は日本企業と海外大学生の交流機会は、ほぼこのイベントに限られている。
イベントには、アメリカ・イギリス・カナダ(米英加)の学生が多く参加しているが、アジア圏やオセアニア圏の学生は距離や試験期間の都合で参加が難しいようだ。
参加企業は外資系を含む約170社で、総合商社、コンサルティングファーム、ビッグテック、メーカーなどがある。ただし、このフォーラムに参加できるのは、ある程度大手の企業に限られる。
その結果、海外大学生のキャリア観は、フォーラム参加企業のキャリア観に大きく影響されている。自分のキャリア観が無意識のうちに、一部の業界や企業の掲げるキャリア観に染まり、狭まっている。学生からは、「フォーラム参加企業以外の業界や企業の話も積極的に聞きたい」という声も多い。
【偏見③】海外大といえば「アメリカ・イギリス・カナダ」
日本では、早慶上智(早稲田大学・慶応義塾大学・上智大学)、GMARCH(学習院大学・明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学)などのグループで、大学のレベルをイメージしやすい。しかし、海外の大学は多岐にわたり、そうした単純なイメージが難しい。
そのため、海外大学生に対する一般的な認識として、米英加の留学生が主流だと思われることがあるが、実際にはアジア圏と米英加圏の海外大学生の比率は半々くらいだ。最近では、費用の観点から学費無償の制度や国費奨学金がある欧州への留学も増えている。
ただし、「アジア圏で学ぶ日本人留学生は韓国語や中国語など英語以外の言語で留学をしている学生も多く、英語が話せない」という理由で、アジアで学ぶ留学生が適切に評価されないことがある。
日本からアジアへ学生を送り出す留学エージェントは年々増加傾向だが、アジア圏の学生向けの就活サービスはまだ不足している。多くの海外学生向けのサービスは、主に米英加の学生を支援しているからだ。留学エージェントも大学入学までのサービスは提供しているが、ビジネスの構造上、出口の就職段階までサポートするのは難しいのが実情である。
アジアの海外大学生の中で、台湾・マレーシア・中国本土・韓国が8~9割を占めている。特にマレーシアは、アジアの中で最も多くの日本人留学生がいる国だ。英語教育が盛んであり、留学費用も比較的安い。費用の面で米英加に行けないが、留学を望んでいて費用工面に励んでいる積極的で意欲の高い学生が多い。
こうした学生は、日本の大学で例えると、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)や立命館アジア太平洋大学(APU)の学生と似たイメージだ。特にベンチャー気質の企業にとっては、アジア圏の学生との相性がいい。