A:Dippert’s there too.
B:Huh?
A:Dippert is there too.
B:Oh is he?
A:ディパートも来たよ。
B:何だって?
A:ディパートも来たよ。
B:ああ、そうなの。
A:Oh Sibbie’s sistuh had a baby boy.
B:Who?
A:Sibbie's sister.
B:Oh really?
A:ああ、シビーのいもーとに男の子が生まれたんだよ。
B:え、誰に?
A:シビーの妹。
B:ああ、ほんとに?
どちらもよくあるパターンである。Aの人が何かを言うのだが、Bの人はそれに対し、何か新しいことを言って会話を前に進めるのではなく、直前の言葉で問題が発生していることを知らせて注意を喚起している。それでAの人は一つ前に戻って修復をしている。
ここにあげた二つの例で何が問題なのかは明らかだ。
Bの人は相手が何を言ったのかをはっきりと聞き取れていない。この場合、Aの人がすべきなのは、先に言ったことの一部、あるいはすべてを、前よりも少し明瞭に、音の強弱や高低などに気をつけて言い直すことだ。それで問題は解決するだろう。何を言われたのかが理解できれば、Bの人は新しいことを言って会話を前に進めることができる。どちらの例でも、Bの人は、Aの人が修復をしたあと、改めて返答をしている。それによって「提示された情報を理解した」と相手に伝えているのだ。同時に、より詳しい情報を相手に求めることも多い。
ここでの例では、“Huh?”、“Who?”といった言葉が、問題解決の二段階──問題発生の察知(通知)と修復──の起点となっている。
どちらの例でも、問題発生を察知し、知らせる人と、修復をする人は違っている。会話は人と人とが協力し合うことで成り立つ共同行動であることがよくわかる。問題を解決するという仕事に会話の参加者が共同で取り組んでいる。ケーキを二人の人で共同で作る際には、一方の人が小麦粉を容器に入れ、もう一方の人がかき混ぜるということがあるが、それと同じように、一方の人が問題への注意を喚起し、もう一方の人が修復をしているわけだ。
二つの例から、問題を察知する人と修復をする人が異なる場合は、どのような経緯をたどるかがわかる。Aの人は”Dippert’s there too.”と言った時点では、問題の発生に気づいていないと考えられる。問題に気づき、それを知らせているのはBの人だ。Bの人は、Aの人の注意を引き、修復が必要であることを知らせている。するとAの人は修復をして自分の義務を果たしている。
調査によって、問題を察知する人と修復する人が異なる修復作業は、どの言語でも頻繁に行われているとわかった。
私たちの集めた2000を超える会話サンプルでは、日常のくだけた会話では平均で84秒に一度、この種の修復が行われているとわかる。この事実から、人間の言語について二つのことが言えるだろう。
まず一つは──当然のことだが──言語は完全無欠ではないということだ。会話をしていると、1分もすれば何か問題が発生する。聞き落とし、言い間違い、表現のミス、発音の不明瞭といった問題が起きる。もう一つは、問題が発生した時にそれを無視する人は少ないということだ。わざわざ手間をかけてでも問題の発生を知らせ、修復を図ろうとする人がほとんどである。