客単価の強さはサービス価格に反映されるか

 ところで、モノの価格はPOSデータなどで把握できるのでCPIの数字が正しいかどうかのチェックができる。

 ナウキャストが配信しているCPINOWは、このようなチェック機能を持つ指標として私の研究室で2013年に始めたものだ。これに対してサービス価格は計測が難しいので、チェック機能を持つ指標が存在しない。そのため、そもそもCPIの数字がどこまで正確なのかよく分からない。

 チェック機能を持つ指標の候補は客単価だ。客単価というと、通常は店の売り上げを来店客数で割ったものになる。ところが、ここでクレジットカードの購買履歴データを使えば、顧客の一人一人がその店でいくら使ったかを観察することで客単価を精度高く計測できる。

 図3は実際にその手法を用いた結果だ。パンデミックが峠を越えた21年1月を出発点として、それ以降、客単価が何%変化したかを示している。

 例えば焼肉は、21年12月までで16.8%、22年12月までで20%、23年12月までで24.4%上昇したことを示している。21年中の大幅な上昇はパンデミックからの回復期に特有のものだが、それ以降も、年間5%程度上昇しており、価格引き上げが進んだことを示している。焼肉以外の外食や娯楽についても、持続的に上昇していることが分かる。

 ただし、一つ注意点がある。ある店で値上げがあった後、来店時の食べる量や質を落とすといった消費者側の節約効果も客単価の指標には反映されることになる。この指標を作成する際には、その効果を除く工夫をしているが、完全ではない。つまり、値上げ自体はここで見ている客単価の上昇よりももっと高いということだ。

 物価に関する今後の注目点は、客単価指標に表れているようなサービス価格の実勢の強さがCPIに反映されるかどうかだ。春闘の賃上げ動向とともに、マイナス金利解除の可否を決める重要な要因になるだろう。