それどころか、開発当時の水道管の埋設図面が保管されていなかったために、自ら利用する水道設備の、水道管がどこに埋まっているのか、今なお正確に把握していない団地もある。地中の水道管に破断や亀裂が発生し、漏水が地表に現れた時点で、その水道管を探しながら掘り進めて補修を試みるという応急工事を行っている。
この場合、当然、地中のどこかに漏水したまま、正確に特定できていない破損個所も存在するはずなのだが、現状では漏水したまま放置し続けるしかない。事情に詳しくない方にはにわかに信じがたい話かもしれないが、私設水道の規模によっては、このような状態にある水道設備も、「上水道普及率」の数値に含まれ、既製の水道設備として追認されている。
吉川 祐介 (著)
定価957円
(朝日新聞出版)
これは排水においても同様で、基本的に公共の下水道が配備されていない地域は、限界分譲地に限らず個別の合併浄化槽を使用して生活排水を処理するが、これも住宅団地によっては「集中浄化槽」と呼ばれる専用の私設下水道設備を使うところもある。そして、その集中浄化槽が抱える問題もまた、上水道と同じである。
もちろん、そのあまりの不経済・不合理さに、そういった私設の上下水道設備を放棄し、各家庭の個別井戸・個別浄化槽へと切り替えた分譲地も存在する。あるいは、最初から私設上下水道設備は使用されないままの分譲地もある。
しかし、既にあるインフラ設備を放棄し、各戸がそれぞれ自前で上下水道設備を新たに用意するとしても、世帯によってそれぞれの経済的な事情もあるだろう。合意を形成するのは容易な話ではない。
問題を先送りにしていると言っては言い過ぎかもしれないが、他に解決策もないまま、今ある設備を使える間は利用する、という状態が続いている。
1981年静岡市生まれ。千葉県横芝光町在住。主に千葉県北東部に散在する旧分譲地の探索ブログ「URBANSPRAWL ─限界ニュータウン探訪記─」の開設をきっかけに、より探索範囲を拡大したYouTubeチャンネル「資産価値ZERO ─限界ニュータウン探訪記─」を運営するほか、寄稿、講演などの仕事も手掛ける。著書に『限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地』(太郎次郎社エディタス)がある。
※AERA dot.より転載