英語を勉強しても、なかなか話せるようになる実感を持てない。そんな人におすすめの1冊『中学英語だけで面白いほど話せる!見たまま秒で言う英会話』だ。「イラストを見る→見たままを英語にする」を繰り返すことで、日本語を介さずに瞬時に即答する「英語の反射神経」を鍛えることができる。実践的な話す力を養うための最適な1冊だ。本稿では著者の森秀夫さん(麗澤大学外国語学部教授)に「多くの日本人が抱えている英語学習の誤解」について話を聞いた。
日本人が抱く英語学習の誤解
――森先生は『見たまま秒で言う英会話』の冒頭で、これまでに染みついた英語学習法をまず見直すべきだと伝えていますよね。大人になってから英語を話せるようになりたいと思った人が意識すべき学習のポイントを教えてください。
森秀夫(以下、森):実は多くの人が英語学習に対して誤解を抱えていて、その誤解が英語力アップを阻んでいる可能性があります。
そこでまず、英語学習の誤解に関するチェックシートを用意しました。「〇」か「×」か( )に記入してみてください。
① ( )魔法のようにすぐに身につく英語の学習方法がある。
② ( )英会話を身につけるうえで、英文法は不要である。
③ ( )英単語をたくさん覚えれば、英語を話せるようになる。
いくつ「〇」がありましたか? 1つでもあった人は、英語学習に対して誤解を抱えている可能性があります。一つずつ紐解いていきましょう。
【誤解1】
魔法のようにすぐに身につく英語学習法がある
森:「短期攻略」や「〇日間で完成」というキーワードを英語教材の広告で見聞きすることがあります。
残念ながら、魔法のようにすぐに簡単に身につく方法はありません。
特定の講座を受講したり、教材を読んだりしただけでは、話せるようにはなりません。目が覚めたら、急に英語が話せるようになっていたという奇跡は起きないのです。
奇跡が起きない代わりに、地道な努力を正しい方法で続けていれば、どんな人でも英語力を伸ばしていくことができます。毎日の努力を重ねることでのみ、英語が話せるようになります。
【誤解2】
英会話を身につけるうえで、英文法は不要
――「英語を話せるようになるうえで、英文法の学習は不要」ということを耳にしたりしますが、実際はどうなのでしょう?
森:英文法は不要であるという意見を時折耳にします。この考えの根本には、母語習得と外国語習得の混同があるのではないでしょうか。
つまり「日本人は日本語の文法を説明できなくても日本語を話せる。それならば、英語を習得するときにも英文法は不要である」という論理で、そのように主張されているのではないでしょうか。
しかしそれは、「日本人が日本語を身につける過程」と「日本人が外国語として英語を身につける過程」を同じものとして捉えていることで生じる誤解です。
日本人にとって日本語は、日本語が日常的に使われている環境で身につけます。
一方、ほとんどの人にとって英語は外国語であり、英語が日常的に使われていない環境で、学校の授業などを通じて習得していきます。
言い換えると、日本語は母語環境で学び、英語は外国語環境で学んでいるといえます。
英語が日常的に使われていない環境で、少しでも英語を効率的に身につけようと思ったら、意識的に英文法を学んだ方がいいでしょう。
例えば『見たまま秒で言う英会話』では、You look great in that dress.「そのドレスがとても似合っていますね。」という英文を掲載しています。
この文は「主語(S)+動詞(V)+補語(C)」の文型で「S=C」という関係になり、動詞(V)には、be動詞のほかにlookやseemという動詞を置くことができます。
この文法を一度学んでしまえば、この文型に沿って単語を入れ替えるだけで、例えば次のように自力でセンテンスを作っていくことができます。
You look awesome today.
今日、素敵ですね。
He seems nervous.
彼は緊張しています。
自分でセンテンスを作れるようになれば、それを英会話の中にも取り入れることができるので、意識的に表現の幅を広げていくことができます。
英文法を学習する目的は、文法の知識を説明できるようになることではありません。あくまでも、英語でコミュニケーションを図れるようになることです。英文法を知識の習得として捉えるのではなく、コミュニケーションを支えるものとして捉えることが大切だと思います。
【誤解3】
英単語をたくさん覚えれば、英語を話せるようになる
――英単語帳での学習は、英会話力アップにどれくらい意味があると思いますか?
森:英会話ができるようになるためには、英単語を学習することはとても大切です。
一方で、英単語の学習方法に問題がある人がいるのも事実です。
英単語の学習で一番多いのが、1つの英単語に対して1つの意味を覚えるというやり方です。
この学習方法は試験対策としては時短かもしれませんが、例文を意識して覚えないと実際のコミュニケーションで使えるようにはなりません。
多くの英単語には複数の意味があり、文脈によってはじめてその英単語の意味が決まります。そのため、例文を意識して英単語を学習しないと、役に立たないのです。
最初は、文章で意味を確認しながら英単語の意味を覚えます。次に例文を覚えます。そして、例文の一部を入れ替えて自分の文章を作ってみるのです。このステップを踏むことで、自分の会話の中で使える単語として身につけることができます。
ですので、英語を話せるようになるという目的で単語集を活用するのであれば、「一度読んで終わり」ではなく、段階的に何回も繰り返し使うことが重要です。
同時に、英語は生きた言葉ですので、音声データをフルに活用して何度も何度も口に出して練習すると、実際のコミュニケーションでもスムーズに言葉が出てくるようになるでしょう。
参考文献:
『英語学習 7つの誤解』(大津由紀雄、NHK出版)