「すべての科学研究は真実である」と考えるのは、あまりに無邪気だ――。
科学の「再現性の危機」をご存じだろうか。心理学、医学、経済学など幅広いジャンルで、過去の研究の再現に失敗する事例が多数報告されているのだ。
鉄壁の事実を報告したはずの「科学」が、一体なぜミスを犯すのか? 
そんな科学の不正・怠慢・バイアス・誇張が生じるしくみを多数の実例とともに解説しているのが、話題の新刊『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』だ。
単なる科学批判ではなく、「科学の原則に沿って軌道修正する」ことを提唱する本書。
今回は、研究成果の発表における誇張」の実態についての本書の記述の一部を抜粋・編集して紹介する。

「革新的」「ユニーク」「斬新」…なぜ、科学者は誇張した言葉で注目を集めたがるのか?Photo: Adobe Stock

論文の「概要」文に増えるポジティブな言葉

喜ばしいことに、科学の革新は進んでいる。
少なくとも、「学術誌で使われている言葉」をそのとおりに理解すればそう思うだろう。

2015年に科学論文のアブストラクト(概要)にポジティブな響きを持つ言葉が使われる頻度の分析が発表された。
アブストラクトとは科学論文の冒頭にある要約で、科学者はここで読者の関心を引こうとする

競争がますます激しくなる科学論文の市場では、注目を集めるためにことさら力を入れなければならない。

この分析は特定の用語を含むアブストラクトの割合を年別にグラフ化している。

それによると、「革新的(innovative)」「有望(promising)」「頑健(robust)」の使用率は飛躍的に増加しており、「ユニーク(unique)」「前例のない(unprecedented)」も(逆説的かもしれないが)大幅に増えて、「良好な(favourable)」は着実に増えている。
「画期的(groundbreaking)」は、1999年頃まではほぼゼロで推移していたが、何らかの理由で突然、増加した。

「ポジティブな言葉の使用率」は40年間で9倍に

平均すると、これらの自画自賛のポジティブな言葉の使用率は、1974年のわずか2%から2014年には17・5%と、分析期間を通じて9倍近くに増えている
この論文の著者たちは、「過去40年間のポジティブな単語の増加傾向から推定すると、2123年にはすべて(のアブストラクト)に『斬新(novel)』という言葉が登場するだろう」と痛烈に結んでいる。

誇張された言葉の劇的な増加に伴って、科学の革新が本当の意味で加速したかどうかは疑問だ。

むしろ、科学者がこの類の言葉を頻繁に使うようになったのは、読者や、おそらくそれ以上に重要なのは著名な科学誌の査読者や編集者に、自分の結果をアピールする最適な方法だからだろう。

「影響力」「斬新」「重要」…論文の基準への疑念

とりわけ華やかな学術誌のサイトには、以下のような論文を求めると掲げられている。

「潜在的に大きな影響力を持つ」(ネイチャー)
「その分野で最も影響力があり」「斬新かつ広範に重要なデータを提示する」(サイエンス)
「並外れて重要である」(セル)
「他に例を見ないほど重大である」(プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス)

そこには明らかに、厳密さや再現性に関する言葉が抜け落ちている。

ただ、世界屈指の医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』が、「科学的な正確さ、斬新さ、重要性」の順に要件を提示していることに敬意を表したい。

(本稿は、『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』の一部を抜粋・編集したものです)