香港人イベントをつぶしつつ、大型イベントにへつらう政府

 実はこうした動きは、サッカーだけではない。このところ、香港では文化イベントとスポーツイベントをつかさどる文化体育局の楊潤雄局長のもと、演劇界に異変が続き、市民の多くが不満を抱えている。

 まず、1月中旬に、毎年6月に行なわれる舞台演劇の優秀作品とその関係者に対する表彰式への政府賛助金が一方的に撤回されることが明らかになった。政府側はその理由を、昨年の表彰式で「歓迎されざる人物」が登場したり、政治的な揶揄(やゆ)を含む表現があったりしたことと主張していた。しかし、政府にとって歓迎されざる人物であっても、法的に処分されたわけでもない芸術界の一員たちを起用することには問題ないはずだとする主催者側の抗議に対して、担当局は「賛助金支援申請者が多く、今回はお金を回せない」と答え、訴えに対して無視を決め込んでいる。

 次に、2月初めに、ある学校施設を使って行われるはずだった小劇団の公演が、上演3日前になってやはり「政府からの要請」で会場利用を拒絶され、公演ができなくなるという事態が起きた。当局側はその理由について、劇団主宰者が2019年に「SNS上で不当な発言を行った」からと説明したが、すでにその発言は削除されている上、当人は法的に何の処罰も受けていない。それにもかかわらず、政府は資金支援を行っている学校側に圧力をかけて公演を中止させた。その後、その劇団は「これ以上の運営は無理」と解散を発表した。

 さらに政府は、香港の芸術学校である香港演芸学院演劇科の卒業公演にも待ったをかけた。演目名は「一個無政府主義者的意外死亡」(邦題は「アナーキストの事故死)という、イタリア人ノーベル賞作家ダリオ・フォ氏の戯曲だった。政治ムードに敏感になっている香港政府関係者に「アナーキスト」という言葉が引っかかったらしいが、この作品は中国でも前述の中国語タイトルですでに何度も公開上演されているもので、香港政府がビクつかなければいけないようなものではなかったはずだった。