営業DXの落とし穴――
デジタル至上主義で顧客を失う

 デジタル営業やデジタルマーケティング施策の一環として、お客さまにデジタル手法で営業や販売促進の活動をする「型」が流行しています。特に2020年のコロナ禍以降、メールマガジン(メルマガ)が再び人気を集めています。

 メルマガの送信に加え、マーケティングオートメーション(MAツール)を活用し、メルマガを読んで自社のホームページを訪れた見込みのお客さまを特定し、営業メールを送る手法を採用する企業が増えています。

 しかし、営業DXやデジタルの流行に乗じてすべての営業活動をデジタル手法に切り替えることが本当に適切かどうかは問題です。

 営業活動の基本は、お客さまとの信頼関係の構築にあります。信頼の築くには、コミュニケーションが欠かせません。コミュニケーションの質を考慮すれば、デジタルよりも対面が優れていることは明らかです。対面することで、お客さまの表情や雰囲気、仕草などから多くの情報を双方が得ることができるからです。

 営業DXで営業活動がデジタル一辺倒になると、重要なお客さまへはメール送信の頻度を上げ、その他のお客さまへは頻度を下げて月一のメール送信をするという、デジタルだけを活用しただけの顧客接触戦略に傾きがちです。

 こうした背景には、繰り返し接触することによって、好意や親しみを感じやすくなるという心理効果の単純接触効果が関係しているかもしれません。コミュニケーションの質を考慮しないデジタル一辺倒の施策は再検討の余地があるでしょう。

 デジタル営業やデジタルマーケティングでは、購買につながるWEB行動をしたお客さまへ自動追従で売り込み型のメールを送る手法があります。しかし、本来は電話や訪問で対応すべき重要な見込みのお客さまにはこうした手法を取るべきではありません。コミュニケーションの質を考慮すると、デジタルよりも電話、電話よりも対面が望ましいです。特に重要なお客さまには、直接訪問することが大切ですが、人手不足で対応が難しいお客さまにはデジタルでの接触を試みるべきです。

 営業DXは、対面型営業をデジタルに移行することではありません。デジタルのよい面を取り入れつつ、従来の対面型の営業活動を補完する形が理想です。

 経営資源が限られる中小企業では、営業人員の制約から対応できるお客さまの数に限界があります。対応すべき営業場面を限定し、限られた営業人員でより多くのお客さまに対応するのが理想です。

 売上が大きいお客さま、直近で購入可能性が高いお客さま、将来的に大きな売上が見込まれるお客さまは最重要顧客として扱い、できるだけ対面などの質の高いコミュニケーション手法で、信頼関係の構築に努めるべきです。

 最重要顧客にデジタルでの営業手法を展開している間に、競合会社が対面などの質の高いコミュニケーションを試みて、お客さまを失ってしまうリスクがあります。

 営業人員だけで対応できないその他のお客さまには、人的な接触頻度を減らすなどの対応が可能です。それでも対応が難しいお客さまにこそ、デジタルを活用した接触をすべきです。