仕事やノルマを無理強いして
できなければ減点の「脅しの経営」
このメンタルヘルスの専門家に取材したのは1999年のことでした。日本経済が1997年の金融危機をきっかけに、「失われた30年」とも呼ばれる停滞のトンネルへともぐりこんでいった時期です。
残念ながら彼の危惧は的中してしまったように思います。「失われた30年」を通して、少なからぬ日本企業の経営が「仕事やノルマを無理強い」し、できなければ減点する「脅しの経営」へと変質していったように私には見えてなりません。
「ジョブ型雇用」「メンバーシップ型雇用」という言葉をあちこちで耳にする機会が増えたと思います。
「ジョブ型雇用」はアメリカなど欧米企業で主流の雇用形態です。
企業が社員を採用する際、社員に対して職務内容や勤務地、役職、勤務時間などをあらかじめ「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」と呼ぶ書類で明示して、雇用契約を結びます。
給料は職務内容や専門性の度合いによって金額が決まる「職務給」なので、年齢や勤続年数にかかわらず高い専門知識や能力があれば高収入を保証されます。
「ジョブ型雇用」は「仕事に対して人を割り当てる」雇用の仕組みだと言ってもいいでしょう。
これに対して「メンバーシップ型雇用」は日本企業で主流の雇用形態です。
企業が社員を採用する際、社員に対して職務内容や勤務地、勤務時間などを限定せず、雇用契約を結びます。社員は会社の都合で職務内容の変更や異動、転勤、出向を命じられます。
大学新卒者を一括採用し、様々な部署を経験させ育成する日本の大企業の雇用形態は「メンバーシップ型雇用」の典型例です。
給料は勤続年数や役職に応じて支払われる「職能給」なので、職務内容や専門性は「ジョブ型雇用」の「職務給」ほどには考慮されません。
「メンバーシップ型雇用」は人がらやコミュニケーション能力を重視して「会社に合いそうな社員」を採用し、あとから仕事を割り振る雇用の仕組みだと言っていいでしょう。
「メンバーシップ型雇用」は
終身雇用と表裏一体だった
日本の大手家電メーカーなどが高い国際競争力を誇った1980年代までは「メンバーシップ型雇用」は企業、社員の双方に利点がありました。
企業は社員に対して職務内容や勤務地、勤務時間などを明示していないので、都合に応じて社員の配置を変えられます。