技術者を営業に異動させることで技術陣と営業担当部署とのコミュニケーションを円滑にし市場ニーズをより反映した製品を開発したり、優秀な営業担当者を外国に転勤させ海外市場の開拓を図ったりできました。
社員は容易に解雇されないという安心感を抱けました。
アメリカなど欧米企業で主流の「ジョブ型雇用」では、企業の戦略の変更や業績悪化などによって社員の担当する職務が必要でなくなった場合、その社員は解雇される場合が少なくありません。
「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」には、「何らかの理由で職務が必要でなくなった場合の新たな職務」は一般的に記述されていません。雇用契約において、企業には社員に新たな仕事を用意する義務が無いのです。このためよほど優秀でない限り、社員は永続的な雇用を保障されません。
しかし「メンバーシップ型雇用」のもとでは、仮に何らかの理由で担当していた職務が必要でなくなっても、他部署に異動して別の職務を担当できるので、その企業に勤務し続けられます。
「メンバーシップ型雇用」は終身雇用と表裏一体だったと言ってもいいでしょう。社員は解雇の不安を感じることなく勤務でき、またそのような安心感や安定性が社員のやる気や企業への帰属意識を支えていたのです。この構図は経営が安定していた大企業ほど顕著でした。
しかし「メンバーシップ型雇用」のもとで社員の安心感や安定性を支えていた終身雇用は、金融危機が起きた1997年以降、一気に崩れていきます。
「メンバーシップ型雇用」は
労働者側のメリットが希薄化
金融危機を転換点として終身雇用という支えを失った「メンバーシップ型雇用」は、やがてじわじわと社員のやる気や企業への帰属意識を蝕むようになっていきました。
先に触れたように「メンバーシップ型雇用」では、社員は会社の都合で異動や転勤、職種替え、出向を命じられます。辞令一本で意にそわない部署に異動させられたり海外に転勤させられたり、エンジニアやマーケッターとしてキャリアをまっとうしたかったのに別の仕事に就かされたりします。中堅を過ぎ、ベテランと呼ばれるようになれば片道切符の出向を命じられる覚悟もしなければなりません。職種が多様で、子会社を持ち、海外展開をしている大企業であればなおさらです。