現代人は「慢性的で容赦ないストレス」に押しつぶされ、頭も肉体も、そしてメンタルも疲れ切っている。私たち人間が本来持つ「エネルギー」を取り戻すには、どうすればよいのだろうか? 本連載では、スタンフォード大学で人気講義を担当し、億万長者の投資家、シリコンバレーの起業家、アカデミー賞俳優の専属医でもあるモリー・マルーフの著書『脳と身体を最適化せよ!──「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法』から人生最高の時期を引き延ばし、生活の質を最大限に高め、幸福度を増し、慢性疾患の発症リスクを下げる「最新の健康法」を紹介する。
「座りっぱなし」でジム通いも無駄になる
座りっぱなしでいることは太りすぎよりも危険だ。
心肺フィットネス(心肺持久力)が低い人は、BMI値(体格指数)が高いことよりも、心肺フィットネスの低さが原因で死亡する可能性が高い。
座りっぱなしのライフスタイルは細胞内のミトコンドリア密度を低下させる。つまり、エネルギー産生が減少し、消耗が早まる。
運動によってミトコンドリアの働きを強化する信号が送られることを思い出してほしい。
座りっぱなしの生活はその真逆だ。あなたのミトコンドリアは、エネルギーがさほど必要ないと思えばエネルギーを産生しなくなる。
ジムでの激しいトレーニングも、その後一日中座り続ければ、実質的に帳消しになる!
座ってばかりいると不調を招き、肺気量が低下したり深い呼吸ができなくなったりする。
すると、肺活量はもちろん、なんと注意力や集中力まで損なわれる。
座ることは骨格筋や脂肪組織にも代謝的影響を及ぼす。筋肉がエネルギーを使わないため、身体は脂肪を分解して筋肉が使うエネルギーをつくるのをやめてしまう。
そして、代わりに脂肪を溜め込む。ここで起きていることを専門的に言うと、活動が減ることにより、リポ蛋白(たんぱく)質リパーゼという脂肪燃焼に関わる酵素が減少してしまうのだ。
立って仕事をする(スタンディングデスクの使用など)メリットのひとつは、リポ蛋白質リパーゼの分泌量を増やせることであり、それによって筋肉の脂肪化や筋量の低下を防げる。
座りっぱなしは、肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病、うつ病、不安症、心疾患などのリスクを伴う。
心臓にはミトコンドリアが豊富に存在するため、座りがちな生活によって、心臓のポンプ機能に必要なエネルギーが失われたときに生じる心不全のリスクが高まるのは当然だ。
健康で強靭な心臓を持ちたいと本気で望むなら、ミトコンドリアをもっとつくるよう心臓に信号を送らなければならない。
そうすれば、心臓がその強靭さと機能を維持するために使えるエネルギーを増やすことができる。
こうした信号を送るためには、何としてでも身体を動かさなければならない。
回復を伴うストレッサーがより多くのエネルギーの産生を促すホルミシスを思い出してほしい。有酸素運動は心臓と肺に対するホルミシスストレッサーだ。
長時間の座りっぱなしは「がんのリスク」も高める!
米医学誌『JAMAオンコロジー(腫瘍学)』に掲載されたある研究は、座っている時間の長い人は、ほとんど座らない人と比較して、がんによる死亡リスクがなんと82%も高いことを明らかにした。
たとえ身体活動のガイドラインの基準を満たしていても、長時間に及ぶ座位行動は早死にの可能性を高める。
好きなだけトレーニングしてかまわないが、トレーニングの後に一日中座って過ごせば、早死にのリスクはやはり高まる。
ジムに行くことはとても重要だが、それによって一日中画面の前に座って過ごすことに伴うリスクは軽減されないのだ。
(本記事は『脳と身体を最適化せよ!──「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法』から一部を抜粋・改変したものです。)