「もし、ウクライナ軍がロシア軍に勝てないまま和平を結んだ場合 、ロシアがウクライナ征服の野望を捨てるとは思えない。その後も繰り返し襲ってきて、再び我々の息子たちを殺そうとするでしょう。2014年、東部ドンバス地方で親ロシア派との戦争が始まり、ロシア軍が彼らを支援しました。その後に外交交渉が試みられましたが、結局ロシアは本格侵攻した。それがなによりもロシアのウクライナを軽んじる姿勢を示しています。私は、この状況を少しでもよくしたくて仕事を変えたのです」

 ナタリアさんは静かな声で語ってくれた。勝利しない限り、ロシアの「ウクライナ蔑視」の姿勢は変えられそうもない。それでは息子の安全は守れない。だから、外交に期待するのではなく、前線で武器を取るしかないというのだ。

 また、戦いに参加する動機として、ウクライナの言語や文化も彼女は挙げた 。

「私たちは、ウクライナを(これまで水準が不十分だった)自分たちの言語や作家 、文化を持てる国にしたい。そのためには国の独立が必要です」

 これも、子供や孫らの世代を思っての言葉だろう。彼らが大きくなった時、戦う必要がなく、文化活動に専念できるようにしたい 。だから、自分の世代は戦争によってその環境を整備する、ということだ。

女性兵士ゆえに
戦いづらいことは?

 前線でナタリアさんは部隊指揮官になった。自分の前には40人の部下が整列している。戦いに向けて部隊がどう動けばよいのか。彼らはナタリアさんの指示を待っていた。

「最初のうちは、こんな男ばかりの環境でどうしたらよいだろうかと考えました。男性40人分の視線はプレッシャーでした」

 40人は、もちろんこれまで接してきたような学生ではない。「これからの戦闘について説明しましょう」といった大学の講義調は通用しない。思い切って罵詈雑言に切り替えた。英語の「F○○k your mother」に相当する、母親を侮辱する言葉を言ったのである。

 母親を罵る悪い言葉は、軍では士気を高めるらしい。歩兵たちが敵を攻撃しに塹壕を飛び出す時「敵をF○○kしようぜ 」と声をかけあう。すると、不思議と元気が出るようなのだ。ナタリアさんは、それに倣った。すると、部下たちはよく動いてくれるようになったという。

 戦う時は性格も変わるという。部下からは「厳しい上官」と恐れられるようになった。

 性格も変えてしまうような、厳しい戦場。そこでは女性であるがゆえに戦いづらくなることはあったのだろうか。