「そこに矛盾は感じません」

 ナタリアさんが指揮するのは、直径60~120ミリの砲弾を撃つ「迫撃砲」の部隊だ。射程が数キロのため、ロシア軍の陣地近くまで行かざるをえない。そんな中、ナタリアさんは兵隊とともに戦場を動き、任務を遂行。掩壕(上空からの攻撃から身を守る施設)に戻り、男性兵士たちと一緒に隠れ、敵の砲弾の嵐をしのいだ。

「私はそうやって模範となるよう努め、部下が『指揮官が女性か、男性か』を意識させないようにしてきました。前線では、男性と女性の区別はなく、私も指揮官として男性を束ねられるようになりました」

 セクハラ問題もウクライナ軍ではない、とナタリアさんはいう。

「あれば、軍の任務に支障が出てすぐ問題化するはず。でも、そうした話は聞きません。戦争中の国ですから、軍が女性兵士を大切にしなければ負けてしまいます。女性たちが衛生兵や通信兵、戦車兵などになり、後方だけでなく、前線でも戦えるようにしなければならないのです」

 今、ウクライナ軍全体で女性兵士は5万人を超え、多くが軍の作戦の中核を担っている。

 ナタリアさんは部下に言うことを聞かせられるようにはなったが「戦況は常に厳しいまま」だという。東部戦線では、戦闘が激しくて目の前のことしか考えられない。朝起きるとすぐ、ロシアの砲撃を受け、空軍機が爆撃してくる。砲撃は10時間続くこともある。

「東部戦線は、危険で痛ましいところです」

 一番つらいのは、ロシアの砲撃で軍の仲間が死ぬことだ。悲劇が起きた時は、部下に自分は何もしてやれなかった、守れなかったという意識に苛まれる。

「私のスマホには彼らの電話番号や通信記録が残っています。今後削除することはないと思います。これは自分の国土を守るために死んでいった人の証ですから」

 前線では家族との絆の「証」として、人形を持つ女性兵士も多いという。持ち込まれるのは、多くがふわふわの人形。犠牲が多い中での心の支え、子供の代わりだと思って、苦しい時に抱きしめるのだ。ナタリアさんも自宅から1000キロ以上離れた東部ドンバスの掩壕に持ち込んでいた。

「背嚢にくくりつけています。背襄と一緒に人形は残したまま、敵の砲撃音がやむとまた掩壕から出て、部下たちを指揮します」

 人形だけでは我慢できない時、ナタリアさんは息子にスマホで電話もするという。

「息子が恋しくて仕方ありません。いつも、『愛している 』と言っています」

 直接会うことは叶わない。半年以上、息子と夫に再会できるのは、スマホの画面を通してのみだ。彼女はインタビューの最後にこんなことを言った。

「もちろん 、早く帰って家族を抱きしめたいです」