思いもよらないほど
豊かだったキーウ

 サントリーの高級ウイスキーに、日本でも有名な日本酒「越乃寒梅」。キーウ市内のスーパー「WINTIME」には、日本や欧米の高級酒が棚に並ぶ。ほかにも、ラムやジン、ワインなど数百本が取りそろえられている。ここは戦争をしている国だ。なのに、なぜこんなにたくさんのお酒があるのだろうか。思いもよらぬ光景に疑問がわいた私は、ウクライナ人店員に尋ねてみた。

「酒だけじゃありません。肉や魚も置いています。その中から選んで店内の調理コーナーに持っていっていただければ、調理員がいますので温かい料理もここで食べられます。もちろんアルコールも一緒にどうぞ」

 肉の加工品は、国産のほかドイツなどの産品もあった。魚も鮮魚が並ぶ。すべて鉄道とトラックで輸送し、首都まで運び込んでいるのだ。

 私がキーウで借りていたアパートの近くでも、イタリア料理やジョージア料理、アジア料理などのレストランや、多数の喫茶店が営業していた。

 ある時、イタリア料理店で地元住民十数人が、誕生パーティーを開いていたことがあった。歌を歌ったり、大声で話したりの大騒ぎ。「志願して前線で戦っている兵士もいれば、こうしてレストランで楽しむ市民もいる。人によって価値観が違うのだろうか。前線にいる兵士たちは、後方でこうした生活を享受する人々がいても納得しているのだろうか」。彼らの姿を見て私はそう思った。そして、このことを思い切ってウクライナ人ジャーナリストに話したところ、彼からは次のような答えが返ってきた。

「普通の生活を営む人々がいてこそ、前線の兵士も戦える。暮らしを守るために兵士がいる。国民全員が戦争に狩り出されるようになったら、勝てないだろう」

 レストランだけでなく、近所のスーパーも普通に営業していた。特にペットコーナーが充実し、犬猫のエサも数十種類ある。オイル類やソーセージは日本よりずっと種類が多い。また、取材当時はクリスマスシーズンを控えていたこともあり、若いカップルがツリーの飾りつけを選んでいた。これも赤や緑の飾りなど、数十種類ある。

 品によっては日本のスーパーより豊かだ……。そう心の中でつぶやいた。