ベストセラー小説家も唸った
「小説より奇なり」の捜査現場

『科学捜査ケースファイル 難事件はいかにして解決されたか』(化学同人)
著/ヴァル・マクダーミド

 ミステリの世界では、科学捜査・鑑識捜査ものは一大人気ジャンルだ。この大きな輪のなかに数々の小説、コミック、映画やテレビシリーズが存在する。私自身も海外ドラマ「CSI:科学捜査班」シリーズのファンだ。どのエピソードにも興味深いネタが盛り込まれ、「現場鑑識でこんなことがわかるのか」「個人識別の技術はここまで進歩してるのか」と驚かされることばかりで、何度見直しても面白い。

 こうした優れたミステリ・フィクションのおかげで、科学捜査についての知識は広く浸透してきた。ただ、フィクションが授けてくれる知識はあくまでも「物語のリアル」を支えるためのものなので、「現実のリアル」のなかへストレートに適用することはできない。

「じゃあ、現実の科学捜査の現場はどんなものなんだろう?」

 その疑問に答えてくれるのが本書だ。著者は英国を代表する人気ミステリ作家であり、元ジャーナリストでもある。フィクション作家のストーリーテリングと、ノンフィクション作家の緻密な取材力を合わせ持つ書き手なのだ。科学捜査の曙から書き起こし、全12章、「火災現場の捜査」「昆虫学」「毒物学」「飛沫血痕とDNA」「復顔」「デジタル・フォレンジック」(デジタル鑑識)等々と、基本的なところを幅広く押さえてあるのが嬉しい。「まえがき」でも述べられているが、豊富な実例を眺めてゆくと、まさに「事実は小説より奇なり」と唸ってしまう。

 第12章「法廷」まで読み進み、裁判員制度が導入されている私たちの社会にも、本書のようなコンセプトの国産の科学捜査解説書があったらいいのにと痛感した(けっして自分が調べ物で楽をしたいからではありません)。確かな基礎知識は、開かれた司法を推し進めてゆくためにも必要なものだと思うのですが、関係各位にご一考いただけないでしょうか。久保美代子訳。