ビジョン・ミッション、バリュー設定のメリット

佐宗 NPOを経営していく上では、それらのビジョン・ミッションをどう活かしてきたのですか?

小沼 佐宗さんの『理念経営2.0』ではバリューも大事なものとして挙げられているので、それも一緒にお伝えしたいのですが、実は創業の日に作ったのがバリューだったんです。ビジョン・ミッションは、組織を守るべきものとして意思決定時にずっと大事にしていましたが、それをもっと具現化するためにバリューを設定したイメージですね。

当時、ネット靴店ザッポスに注目が集まっていました。ザッポスがバリューを重視していたことに感化され、共同創業者の松島と一緒に「9つのコアバリュー」を作ったんです。

佐宗 たしかに当時は、ザッポスの経営が注目されていましたね。

小沼 ただ、そのコアバリューは創業時に2人だけで作ってしまったので、メンバーにはなかなか浸透していきませんでした。そこで3年目に、今度はみんなでそれを「クロスフィールズWAY」というものに修正したんです。

職員に配布されている「クロスフィールズWAY」が記載された小冊子

佐宗 効果はありましたか?

小沼 はい、かなり手応えがありました。そのタイミングで初めて「何をしたらうちの組織ではよいとされて、何をしたらダメとされるか」が組織の中ではっきりしたんです。実際にそのバリューを忠実に全員が実行できているかどうかは別として、これを大事にしようと思っている人が集まる組織だと明確になったのです。

佐宗 ビジョン・ミッションだけでは足りなかったのですね。

小沼 ビジョン・ミッション自体は大きな視点に立ったものだったので、それぞれの人が「私はビジョンをこう解釈します」と言えるような独創の余地がありました。でも、そうだったからこそ、メンバーから「結果が出ているから、それでいいよね?」と言われたときに、周囲が違和感を持っていても何も言えないような現状があったんです。率直に言えば、「アナーキー」な状態だったんですよね。それがWAYを設定したことで解消されました。

佐宗 僕もイチ経営者として同じようなことを感じた時期がありました。ある程度メンバーに自由度を持たせいと思っているんだけど、はっきりした価値基準がないと、いろんなところで衝突が起こって、最後には経営者が判断しなければいけない構造になる。それに疲れてしまったことがあったんです。でもバリューを決めると、経営者個人がいちいち判断する必要がなくなるんですよね。これに救われている感覚は、僕個人も持っています。

小沼 そうなんですよね。ビジョン・ミッションの解釈を考えるときには経営陣の声が大きくなるものですが、代表の好き嫌いで判断するのではなく、WAYで判断できるようになったのは組織として大きな進化でしたし、経営者としてもすごく楽になりました。

個人商店から組織に変わっていくプロセスの一つとして絶対になければいけないものがバリューだと思っています。ビジョン・ミッションはバリューのうちにも表れてきますし、バリューは経営者自身も守らなければならないものです。これを蔑ろにした瞬間に、組織が壊れていくと感じています。だから採用や評価の制度にもこれを取り込んでいます。

佐宗 具体的にはどのように使っているんですか?

小沼 9つのWAYを人事にも使いやすいよう「求める10の人物像」にアレンジしました。採用面接の時にこれらの観点でチェックしたり、目標設定や評価のときにも「この10個のうちで今期は何を伸ばしたい?」という話をしたりと、人事制度のなかでさまざまに活用されています。

それから以前は朝礼をやっていたのですが、「WAY TALK」というバリューに紐づく小話を毎日するようにしていました。最近は頻度をもう少し減らしていますが、いつでもみんなが聞けるように社内ラジオのコンテンツにしています。

佐宗 さまざまな形で活用しているのですね。その間、クロスフィールズではビジョン・ミッションの改定をしていますよね。次の記事では、作り直しが必要になった背景と、その後の効果についてお聞きしたいです。

(次に続く)