年収1000万円ではぜいたくや
アクシデントに耐えられない

 現在の設定をもとに家計収支(キャッシュフロー)の推移をシミュレーションしたのが、以下の図1です。

 図1は家計収支の推移を1年ごとに示したグラフです。折れ線グラフが0よりも上回っている年は黒字、下回っている年は赤字であることを示しています。子ども2人がそれぞれ大学に入学する年には赤字になるなど、子育て期間中の収支は上下動を繰り返し不安定であることがわかります。マイカーの買い替えや住宅リフォームなどの出費と大学費用の支出が重なり、赤字額が200万円近くになる年も出てきます。

世帯年収1000万円図1:子ども2人の大学進学時期には赤字が頻発。本書より

 このケースのキャッシュフローの特徴は2人の子どもの年齢差が5歳で、子育ての延べ期間が長いことです。第1子と第2子の教育費の負担がかかる時期が分散されるため2人分の大学費用を一度に支払う時期はない半面、子育てに関わるお金の負担が一段落してから定年退職までの期間は約8年間しかありません。

 夫65歳時に、定年退職による退職金で収入が一時的に増え、その後は給与収入がなくなるため、一転して収入が少なくなります。一般的に現在は公的年金の受給額だけで老後の生活費をまかなえる家庭は希有で、このケースでも企業年金収入を含めても慢性的に赤字が続きます。

 老後は現役時代の貯蓄や退職金を取崩しながら生活するのが一般的ですので、家計収支がマイナスになること自体はそれほど大きな問題にはなりません。そこで、以下の図2に示したのが貯蓄の推移です。現役期間中は預貯金残高がおおむね右肩上がりで増え、夫65歳時点では退職金とあわせると4500万円に達する見込みです。

世帯年収1000万円図2:おおむね右肩上がりで貯蓄が増えていく。本書より

 定年退職後は取崩しが続きますが、基本的な生活費とライフイベントに必要な出費を前提とした本試算上では、夫が90歳過ぎまで残高を維持できる計算です。前提条件として退職金を一時金と企業年金の合計で約3200万円に設定していることは老後の資金のゆとりにつながっていますが、現役期間中にすでに2500万円近くを貯められていることも大きいといえます。

 ただ、このシミュレーションでは旅行や趣味、病気や介護などによる大きな出費は設定していないため、海外旅行などお金のかかるイベントを頻繁に楽しんだり、日頃からぜいたくを繰り返したりしてもなお余裕があるとまでは言い切れません。

結果:首都圏郊外在住で、子ども2人が高校まで進学する場合、主に子どもが大学在学中の家計収支は不安定。平均的な暮らしぶりを続ければ、標準的な老後資金を貯めるには問題なさそう。

〈埼玉県春日部市在住親子4人世帯モデル前提条件〉
・家族構成 夫婦と子ども2人
 夫:35歳(会社員)
 妻:29歳(専業主婦)
 第1子:5歳
 第2子:0歳
 ペット:犬1匹
・年収
 現在~夫54歳:1000万円(給与・ボーナス収入)
 夫55~60歳:890万円(給与・ボーナス収入)
 夫61~65歳:600万円(給与・ボーナス収入)
 夫65歳~:249万円(年金収入。別途退職金は下記参照)
・退職
 夫の定年退職:65歳
 退職金:一時金2000万円、企業年金で年間60万円(20年間受取り)
・年金
 夫20~22歳:国民年金加入
 夫22~65歳:厚生年金加入
 夫65歳~:老齢年金受給開始(支給率は2023年度現在と同じと想定し、現役中の収入額に応じて受給額を試算)
・住宅 埼玉県。新築戸建て・庭付き(所有。夫30歳時に購入と仮定)
 維持費:年間30万円(固定資産税、火災保険、小規模な修繕費用など)、10年ごとに外装・リフォーム代として100万円支出と仮定。
 住宅ローン:夫30歳時に3000万円借入(変動金利、当初5年0.5%〔返済額月7万7876円〕、以後10年ごとに年1.0%→1.5%→2.0%へ上昇と仮定。35年返済〔夫64歳時完済予定〕、ボーナス払いなし、繰上げ返済なし)。
・その他
 生活費:月26万円(住居費、教育費含まず)。物価上昇率1%として毎年上昇すると想定。子ども23歳以降は独立と想定し、末子独立後は現在の生活費の70%。
 ペット費用:年間36万円(当初10年間のみ)
 マイカー:あり。維持費年36万円(ガソリン代、税、駐車場代など)。10年ごとに買い替え、各200万円支出。夫75歳まで保有。
 貯蓄:シミュレーション開始時にはゼロと仮定
・子どもの進路
 第1子:幼・公立→小・公立→中・公立→高・公立→大・私立文系/自宅通学
 第2子:幼・公立→小・公立→中・公立→高・公立→大・私立文系/自宅通学
 教育費:原則として客観的なデータ上の公私別平均値で設定(幼稚園~高校:文部科学省「子供の学習費調査」、大学:日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査」)