いま、管理職やリーダーにとって、「チームマネジメント」のノウハウを学ぶ必要性が高まっています。なぜなら、世の中のトレンドの移り変わりが激しくなり、しかも転職が珍しくなくなったことで、「成果を出し続けるチームづくり」の難易度がかつてなく増しているからです。
そこで今回は、1年でチームの業績を13倍に急上昇させた「組織の変革メソッド」を伝授する『チームX』著者・木下勝寿さんにご登壇いただいた本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)のQ&Aセッションをダイジェストでお届けいたします。(構成/根本隼)

「賃上げしたら会社の利益が減る」と考える人が“完全に見落としている視点”Photo:Adobe Stock

「100%不満のない職場」の実現は難しい

読者からの質問① 世代によって仕事に対する価値観が違うなか、各メンバーの個性を大事にしつつも、チームとして同じ目標に向かっていくために「リーダーにできること」は何でしょうか。

 シニア人材を積極活用しようとすると、若手の給与を抑えざるをえず、また家庭の事情がある社員のサポートを手厚くすると、サポートする側の負担や不満が増えるなど、マネジメントに苦労しています。

木下勝寿(以下、木下) お気持ちは理解できますが、「メンバー全員」にとってパーフェクトな対応をとるのはものすごく難しいと思います。

 なので、たとえば「ワーク&ライフバランス重視の人」と「仕事を通じた成長重視の人」がそれぞれいるときに、会社やチームとしてどちらのタイプに合わせるのか、大枠の方針は明確にしておくべきです。

 ここがブレていると、「あちらを立てればこちらが立たず」という状況になり、リーダーとして組織を統率できなくなってしまいます

 逆に、この方針が定まっていれば、「うちの会社はこういう人にとって働きやすい会社です」と対外的に発信しやすくなるので、採用におけるミスマッチを減らすことができます。

 「全員が100%不満なしで働ける職場づくり」は現実的に不可能なので、

・組織として大事にしている価値観を明確に打ち出す
・そのうえで「価値観に納得できる人」を採用していく

 という二段構えで考えてみてはいかがでしょうか。

「賃上げしたら会社の利益が減る」という発想は稚拙

読者からの質問② マクロなマネジャー目線で「全体最適」を意識した部署運営を進めようとすると、ミクロなプレーヤー目線での「部分最適」を盾にした反発や不満がメンバーから生じがちです。結果として、部署のまとまりも悪い状態です。

 特効薬はないと思いますが、上司と部下の視点の違いを解消するコツがあれば、ぜひ教えてください。

木下 KPIを設定すると、各メンバーが部分最適に向かうのは当然なので、悪いことではありません。

 ただ、KPIの設定によって生まれた「部分最適」が「全体最適」と不整合なのであれば、KPIそのものが間違っている可能性が高いと思います。

 大事なのは、メンバーが目の前のことを一生懸命取り組めば、自然に全体最適へとつながっていく仕組みをマネジメント層が作ること。決して簡単なことではありませんが、これはリーダーが必ず果たさなければならない使命です。

 たとえば、社員が「給与を上げてほしい」と要求したときに、社長が「給与を上げると会社の利益が減るのでできません」と主張したら、おかしな話ですよね。

 そうではなく、給料を上げることで社員のやる気が上がり、それが循環して会社の利益が増えていく仕組みを作るのが、マネジメントの仕事。その視点を持たずに、現場の社員に「部分最適よりも全体最適を優先してほしい」と説き伏せようとしても、うまくいくはずがありません。

 ちなみに私がKPIを考えるときは、「こういうKPIだったら、みんなはどう行動する?」などとメンバーに事前に確認しながら、部分最適と全体最適にズレが生じないように設計することを心がけていますよ。

(本稿は、新刊『チームX』刊行記念セミナーで寄せられた質問への、著者・木下勝寿氏の回答です)