国では空き家の増加を厳しく抑制する方針
年々、増え続ける「その他の空き家」=「誰も住まなくなった実家」について、政府の推計では直近のトレンドのままでいくと2025年(令和7年)には420万戸、2030年(令和12年)には470万戸程度になるとしています。
これは単純計算で毎年10万戸ずつ増えていくペースです。ちなみに2022年1年間に建設された新築住宅(持ち家、賃貸住宅、分譲住宅などの合計)は約86万戸なのでその1割強にあたります。新しい住宅を約86万戸つくりながら、その一方で10万戸も空き家が増えていく。これはどう考えても異常です。
政府や自治体も当然、危機感を強めており、2030年に400万戸程度に抑えることを目指しています(それでも単純計算で毎年4万戸強増えるペースですが……)。
そのために近年、「空家等対策の推進に関する特別措置法(空家対策特別措置法)」の導入・改正や「空き家バンク」の運営、空き家対策のワンストップ窓口の設置などが急ピッチで進められています。
周囲に著しい悪影響を及ぼすものを「特定空家等」に指定
増え続ける空き家に対する行政の厳しい姿勢を表す筆頭が2015年に施行された「空家対策特別措置法」です。
この法律のポイントは、持ち家という私有物の利用に対して自治体が介入できるようにしたことです。
空き家といっても所有者のもので、リフォームしようが建て替えようが、売ろうが貸そうが、住むのも住まないのも、基本的に自由です。
しかし、空き家のまま放置すると建物が老朽化し、敷地内に雑草なども生い茂り、周辺の居住者や環境に対して様々な被害と悪影響を及ぼす可能性があります。
そこでこの法律は下記の図のような目的でつくられ、また空き家(法律では「空家」)や「特定空家等」について細かく定義しています。
特に重要なのが「特定空家等」で、整理すると次のいずれかにあてはまると「特定空家等」になるというのです。
① 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
② 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
③ 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
④ その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
「特定空家等」に指定された空き家に対して自治体では、段階を追って「助言又は指導」「勧告」「命令」「戒告」といった対応を行います。
例えば「勧告」を受けるところまでいくと、固定資産税等において認められている「住宅用地の特例」の適用が外され、固定資産税等の額が最大6倍に増えることになります。
「命令」になると50万円以下の過料が科されます。
最終的には「行政代執行」によって所有者に代わって空き家を解体・除去することまでできます。自治体が解体・除去するためにかけた費用は空き家の所有者が負担しなければなりません。
実際に2015年度から2021年度までの累計で、勧告を受けた「特定空家等」は全国で2382件あり、命令は294件、行政代執行も140件あります。
新たに設けられた「管理不全空家」
さらに2023年6月の法律改正においては、「特定空家等」と認めるまでには至らなくても、そのまま放置すれば「特定空家等」になるおそれがある空き家に対しても、助言又は指導、勧告を行うことができるようになりました。
こうした空き家は「管理不全空家」と呼ばれ、勧告を受けると「特定空家等」と同じく、固定資産税等における住宅用地の特例の適用が除外され、固定資産税等が最大6倍になります。
空き家問題を抑え込もうという、国や地方自治体の強い意志が感じられる改正だと思います。
(本原稿は、吉原泰典著『「空いた実家」は、そのまま貸しなさい』を抜粋、編集したものです)