空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「あらゆる人におすすめしたい。壮大なスケールで「知的好奇心」を満たしてくれる素敵な本だ」、鎌田浩毅氏(京都大学名誉教授)「美しい空や雲の話から気象学の最先端までを面白く読ませる。数学ができない文系の人こそ読むべき凄い本である」、斉田季実治氏(気象予報士、「NHKニュースウオッチ9」で気象情報を担当)「空は「いつ」「どこ」にいても楽しむことができる最高のエンターテインメントだと教えてくれる本。あすの空が待ち遠しくなります」と絶賛されている。今回は、気象予報士の佐々木恭子氏の原稿を特別に掲載します。

【「雨の強さ」は5段階】もっとも強い「猛烈な雨」の雨量はどれくらい?Photo: Adobe Stock

「猛烈な雨」とは?

 天気予報などで見聞きする「非常に激しい雨」や「猛烈な雨」。これらの言葉はどのような雨の降り方を意味しているのでしょうか。なんとなく受け止めてしまう人も多いかもしれませんが、実は正式な予報用語として1時間あたりの雨量が決まっています。

 雨の強さの階級は、「やや強い雨」から「猛烈な雨」まで5段階に分けられており、「非常に激しい雨」は1時間に50mm以上、「猛烈な雨」は1時間に80mm以上の雨です。

 雨量の単位である「mm(ミリメートル)」は、「降った雨が流れ去らずにそのまま溜まった場合の水の深さ」を表しています。しかし、その数値と雨の程度が結びつかないため、例えば「明日18時までの24時間で100mm」や「1時間に50mm」などの情報が発表されても、それが何を引き起こす雨なのかをイメージしにくいのかもしれません。

 1時間に80mmの雨は、場所によっては「記録的短時間大雨情報」(その地域にとって数年に1度程度しか発生しないような短時間の大雨を、観測・解析したときに発表される気象情報)が発表される可能性があるほどの大雨で、土砂災害やアンダーパスなどの浸水、中小河川の氾濫による洪水害が発生する可能性があるのです。

【「雨の強さ」は5段階】もっとも強い「猛烈な雨」の雨量はどれくらい?雨柱。積乱雲(雷雲)の下で土砂降りの雨が柱状に見える(写真:荒木健太郎)。『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(荒木健太郎/ダイヤモンド社)P343より

 このような雨の危険を感覚的にも察知できるように、気象庁のウェブサイトには雨の強さとその降り方がまとめられています。

 例えば、1時間に80ミリ以上の「猛烈な雨」についての人の受けるイメージは、「息苦しくなるような圧迫感がある」という尋常ではない降り方であることがわかります。屋外の様子は、「水しぶきで辺り一面が白っぽくなる」ことから、すでに冠水している道路にさらに勢いよく雨が降り、見通しも悪くなっている様子が想像できます。避難のための移動が難しくなっている可能性があるということです。

「猛烈な雨」は降り続くことがある

 特に、台風や線状降水帯などによる大雨では、「猛烈な雨」は1時間で終わらず、数時間続くことがあるため警戒しなければなりません。

 令和2年7月豪雨では、九州地方で線状降水帯が複数発生して「非常に激しい雨」や「猛烈な雨」が降り続き、3時間で250mm以上の雨が解析されたところも多数ありました。これにより、大河川の氾濫や、土砂災害、低地の浸水などが多発したのです。

「体験」して数値と現象を結びつける

 雨量などの数値と実際に起こったことをそれぞれ知ったとしても、まだ実感はできないかもしれません。そこで、数値と現象を結びつけるために、大雨や水の重さなどを体験できる施設の利用をおすすめします。

 例えば、東京消防庁の「本所都民防災教育センター(本所防災館)」では暴風雨を体験できる施設があったり、京都大学防災研究所流域災害研究センターの「宇治川オープンラボラトリー」では、浸水したときのドアの重さの体験や、階段を滝のように流れる水の勢いを体験できたりなど、実際の災害を想定した様々な体験ができます。(常設ではなく、施設の一般公開などで期間が限定されているものもあります。訪問する際は、詳細を確認してください)

 このように実際に体験してみることで、天気予報や気象情報が伝える数値からどのような雨かをイメージし、備えておくようにしましょう。

【参考文献】
気象庁「雨の強さと降り方」
 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/amehyo.html
気象庁「令和2年7月豪雨(災害をもたらした気象事例)」
 https://www.data.jma.go.jp/stats/data/bosai/report/2020/20200811/jyun_sokuji20200703-0731.pdf
東京消防庁「本所都民防災教育センター(本所防災館)」
 https://tokyo-bskan.jp/bskan/honjo/
京都大学防災研究所流域災害研究センター「宇治川オープンラボラトリー」
 https://rcfcd.dpri.kyoto-u.ac.jp/openlab/index.html

(本原稿は、荒木健太郎著読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなしの内容と関連した、ダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)

佐々木恭子(ささき・きょうこ)
気象予報士。防災士。合同会社『てんコロ.』代表
早稲田大学第一文学部卒業後、テレビ番組制作会社入社。バラエティー番組のディレクターを経て、2007年に気象予報士の資格を取得し、民間気象会社で自治体防災向けや高速道路・国道向け、企業向けの予報などを担当。現在は予報業務に加えて、気象予報士資格取得スクールなどを主催・講師を務める。監修に『奇跡の瞬間!空の絶景100選』(宝島社)など。編集協力に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、荒木健太郎著/KADOKAWA)、『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(荒木健太郎著/ダイヤモンド社)などがある。
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