スタートアップの裏事情を発信する匿名アカウント、運営者と噂される起業家の「ステマまがい行為」と「グレーな株取引」Photo:sarayut Thaneerat/gettyimages

スタートアップの裏事情について発信を続ける匿名アカウント・Suan。言動には毀誉褒貶(きよほうへん)あれども、業界関係者の耳目を集め続けている。その運営者として名前が挙がるのは、あるスタートアップの起業家だ。その起業家は、自社でステルスマーケティング(ステマ)まがいの行為や、疑義のある株式取引に関与していることが分かった。匿名アカウントの正体に迫る。(ダイヤモンド・オンライン シニアエディター 岩本有平)

決算公告をする企業はわずか1.8%
「数字」では見えないスタートアップの実態

 政府が2022年11月に打ち出した「スタートアップ育成5カ年計画」を背景にして、メディアでも目にする機会が増えたスタートアップ(編集部注:以後本稿では、「外部資本の受け入れも想定し、早期の上場や売却を目指す未上場企業」という“狭義のスタートアップ”を指して「スタートアップ」と総称する)だが、その経営実態を把握することは困難なことはご存じだろうか。

 未上場企業であるスタートアップには、上場企業のように四半期ごとの決算などを開示する義務がない。未上場企業であっても、年度ごとに貸借対照表などを公告する「決算公告」の義務があるが、実際に決算公告を行っている企業は、対象企業のわずか1.8%(22年において、公告方法を官報としている株式会社のうち、実際に官報で決算公告をした企業の割合。東京商工リサーチ調べ)。

 会社法では、決算公告を適切な時期に開示しない場合や不正な決算公告をした場合に罰則を設けているが、それでも2%に満たない企業しか決算公告をしていないのが実情だ。この数字はスタートアップ以外の未上場企業も含んだものであり、公告方法を限定した調査の結果ではあるが、その経営実態を知ることがいかに難しいかは伝わるだろう。

 もちろんプレスリリースや法人登記、企業情報データベースサービス、公的機関への申請内容など、未上場企業の定量的な情報を得る手段がないわけではない。だが関係者の間で日々駆け巡るのは、「あのスタートアップは今、売り上げを急激に伸ばしているらしい」「このスタートアップは大量に退職者が出て危険らしい」といった定性的な情報やうわさも多い。IT業界の成長スピードを犬の成長にたとえて「ドッグイヤー」と呼ぶことがあるが、毎日目まぐるしく変化する状況を正しく捉えることは非常に困難だ。

Xでフォロワー3万人以上
注目集めるスタートアップ匿名アカウント

 そんなスタートアップに鋭い視線を注ぎ、問題提起してきたのが、匿名SNSアカウントとサイトを運営する「Suan」だ。22年秋頃に活動を開始し、そのX(旧:Twitter)アカウントのフォロワーは現在3万人以上。その言動や論調から毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい存在だが、スタートアップの分析やタレコミを元にした裏事情の発信などで注目を集めている。

 書籍や既存メディアの記事を、引用の範囲を超えて使用したタイミーというスタートアップの社員のSNSアカウントに対して、著作権侵害の疑義(編集部注:「引用の内容が主で、オリジナルの内容が従」といったコンテンツの場合、「引用の目的上正当な範囲内」という著作権法上認められる引用の要件を満たさない)を指摘。同じくスタートアップであるアルゴリズムが行うサブディレクトリ貸しビジネス(※)についても問題提起を行った。

(※ SEO〈検索エンジン最適化〉の観点で有力なサイトの運営者が、そのサイトの一部のサブディレクトリをアフィリエイト事業者などに貸すビジネスのこと。サイト運営者は貸し主としてその対価を得ることができ、アフィリエイト事業者などの借り主は、自分たちのサイト以上に大きい貸し主のサイトを活用してビジネスを展開できるというもの。借り主はいわばSEOに強いサイトを間借りしてビジネスをすることから、貸し主・借り主の両者に対してその正当性に疑義を持つ業界関係者も多い)

 23年10月には、広告であるにもかかわらず広告であることを隠す、いわゆる「ステマ」が不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法、景表法)によって規制されたが、そのステマ規制に違反しているとして商品比較サイト「mybest」を運営するマイベスト社を糾弾。マイベスト側もその正当性を訴えてユーザベースが運営するメディア「NewsPicks」で反論するなどして話題を呼んだ。

 実態の見えにくいスタートアップに対して、賛否両論を巻き起こしながらも切り込む姿勢で話題を集めているSuan。だが、その運営にはステマまがいの行為をいとわず、さらにはペーパーカンパニーを通じて上場美容企業の株式取得を進める、“危うい”スタートアップ起業家が関与している可能性が高い。そのスタートアップの名前と実態を次のページ以降で明らかにする。