加熱式たばこの「税優遇」より健康寿命を伸ばすことが大事

 防衛費などの財源確保のために「たばこ増税」が検討されている中で、ハームリダクションの観点から加熱式たばこに関しては、従来通り「税優遇」を維持すべきという意見が盛り上がっている今の状況に対しても、苦言を呈した。

「財源というのなら、国が喫煙対策をしっかりやってもらった方が、COPD(喫煙などで肺に持続的な炎症が生じる病気)になる方が減るわけですから、その分、健康寿命が延伸し、現役で働き続けられる人も増えるわけで国の税収も増える。しかも、禁煙をする人が増えれば当然、医療費の削減につながります。

 また、健康寿命の延伸は、これから日本で起きる医療従事者の減少と不足への対応策となっていく。つまり、喫煙者も周囲にいる人も健康で働き続けられるし、国民の健康と命を支える医療の負担も減る。しかも、国は税収が増える。これが、私が喫煙対策を“三方良し”と呼んでいる所以です」(黒瀬常任理事)

 このようにハームリダクションをめぐって政治や企業と大きな溝があるのだ。ただ、こういう思想の対立は、何も日本だけに限った話ではない。

 例えば、アメリカ政府の食品医薬品局(FDA)は、加熱式たばこを「暴露低減たばこ製品」と認めているが、世界保健機関(WHO)は認めていない。また、160カ国以上の医師、医療専門職、科学者などが参加する呼吸器分野の国際学会「欧州呼吸器学会」(ERS)も「たばこハームリダクション」に否定的な声明を出している。

 コロナ禍でも起きた現象だが、ハームリダクションに関しても今後は「医療vs.政治」の主導権争いが激化していく様相なのだ。

 そこに加えて、我らが日本の場合、「ムラ社会」ならではの利……ではなく、さまざまなオトナの事情が複雑に絡み合って、さらに問題をややこしくしている。

 わかりやすいのは「電子たばこ」だ。世界保健機関(WHO)事務局長のシニアアドバイザーも務めた東京財団政策研究所の渋谷健司研究主幹によれば、「日本はニコチンを含む電子たばこが規制されている世界でも珍しい国だ」(産経新聞23年11月8日)という。

 ハームリダクションを推進する人たちは「世界的な潮流に背を向けるな」と勇ましいことをおっしゃるが、それであれば、加熱式たばこより害の少ない電子たばこの規制を見直すというのが定石のはずだ。だが、なぜかそういう話にはならない。

 世界の潮流に合わせて、電子たばこを普及させてしまうと誰が困るのか。日本の喫煙者たちがこぞって「加熱式たばこ」へスイッチすることで得をするのは誰なのか――。

 あまり深く突っ込みすぎると、また多方面からきついおしかりを受けるので、この辺でやめておくが、「たばこハームリダクション」とやらの前に、まずはこういう「前時代的なムラ社会」からのハームリダクションを進めていただきたい。

(ノンフィクションライター 窪田順生)

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