「加熱式」増税に待ったをかける「ハームリダクション」

 リサーチ会社のネットエイジアが、20歳~69歳の男女1000名を対象に、加熱式たばこを吸うようになったきっかけを調べたところ、「紙巻たばこを吸える場所が減った」(25.1%)、「友人・知人・家族から勧められた」(24.5%)という、「でしょうね」という回答があった。さらに、「健康を気にするようになった」(23.2%)という声もそれなりにあるのだ。

 このような「健康目的」の加熱式たばこへのスイッチはさらに進んでいく。なぜかというと、たばこメーカー、マスコミ、さらには政治までが一丸となって、この動きを後押しているからだ。

 わかりやすいのは、フィリップモリスジャパン合同会社のホームページに掲げられる、シェリー・ゴー社長のこんなメッセージだ。

《社会全体で害の低減を目指すハーム・リダクションの概念を公衆衛生政策の重要な要素と捉え、紙巻たばこを喫煙し続けることより、より良い選択肢への切替えを促すような規制と税制を支持しています》

「ハームリダクション」とは、薬物やアルコールがもたらす害(ハーム)を減らす(リダクション)ことによって、リスクや健康被害を防ぐという取り組みだ。海外では依存症治療や薬物対策のひとつの柱となっているが、どういうわけか日本では「喫煙」の文脈で使われる場面が多い。

 例えば、産経新聞社は、人生100年時代を据えた企画「100歳時代プロジェクト」の中で、昨年11月から今年2月まで3回にわたって「ハームリダクションの現在地」というシリーズを掲載している。そこで論じられているのも「喫煙のハームリダクション」、つまり「加熱式たばこへのスイッチ」だ。

 政治家や有識者も同様だ。昨年6月、自民党議員からなる「国民の健康を考えるハームリダクション議員連盟」が設立された。彼らが訴えているのは、加熱式たばこの税優遇の堅持だ。現在、加熱式たばこは紙巻きたばこに比べて税金が安い。これに対して防衛増税の財源のひとつとして、紙巻きと同水準に引き上げるべきだという意見があるのだが、議連としては「ハームリダクション」の観点から反対しているのだ。

 一般社団法人・新時代戦略研究所が立ち上げた「国民の健康とハームリダクションを考える研究会」も同様で加熱式たばこの増税に反対をしているほか、紙巻きたばこから加熱式たばこなどへの切り替えを促す「たばこハームリダクションの法制化」を掲げている。

 このような動きを見る限り、世界トップレベルの「加熱式たばこ大国」の成長はしばらく続くだろう。ただ、不安材料は多い。