表情がコミュニケーションに及ぼす影響は言語情報よりも大きい。だが何故、表情から心の内を読むことができるのか。今から100年以上前、取り憑かれたように表情を観察した研究者たちがいた。本稿は、中野珠実『顔に取り憑かれた脳』(講談社現代新書)の一部を抜粋・編集したものです。
「目は口ほどに物を言う」
科学的に立証したメラビアン
「目は口ほどに物を言う」ということわざにもあるように、目は言葉では伝えきれない感情を表しています。それどころか、言葉よりもじょう舌に心の内に秘めた本心も語ってしまうものです。私の知り合いにいつも誉めてくれる人がいますが、その人と話すときの私の背筋は凍りついています。なぜなら、その目は決して笑っていないので、言葉の真意がどこにあるのかが読み取れないからです。このように、顔はコミュニケーションにおいて、とても大きな影響力を持っています。
コミュニケーションにおいて、言葉よりも表情の方がずっと大きな影響を与えることを最初に科学的に実証したのが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学者アルバート・メラビアンです。彼は、1971年に出版された『Silent Messages』という著作の中で、のちに「メラビアンの法則」として世界中に知られることになる有名な研究結果を発表します。
コミュニケーションに及ぼす影響の内訳は、言語情報が7%、声のトーンといった音声の情報が38%、そして表情などの視覚情報が55%である、というものです(図4-1)。
彼が行った実験の一例は次のようなものです。2人の女性に、“maybe(多分)”という言葉をポジティブ、ネガティブ、中立の3つのトーンで話してもらい、録音しました。さらに、彼女らのポジティブ、ネガティブ、中立の表情の写真を用意しました。そして、別の実験参加者に、音声と写真をいろいろな組み合わせで提示しました。例えば、音声はポジティブなトーンだけれども、一緒に提示された写真の表情は悲しそうというような感じです。それに対して、ポジティブな印象を持ったか、あるいはネガティブな印象を持ったかを参加者に答えてもらいました。そして、音声のトーンと表情のどちらが、参加者の抱く印象に影響力を持っているかを調べたというわけです。
彼が示したかったのは、コミュニケーションには非言語情報も大きな役割を果たしていること、そして、言語情報と非言語情報が食い違うときは、非言語情報の方が強い影響を与えるということです。