メラビアンによると、私たちはわざと言語と非言語で異なる情報を伝えることがあると言います。「もう、悪い人ね……」と妻が愛に満ちた目で夫に向かって言うのが、その最たる例だそうです。この場合は、言葉と態度の不一致があることで、より愛が伝わるのかもしれません。一方で、言語と態度の不一致は、話している内容を否定することになるので、その人の信頼性を低下させてしまいます(私の背筋が凍ったように)。そのため、あえて不一致にすることで特定のメッセージを送りたいとき以外は、言語と態度は一致していることが、円滑なコミュニケーションには大切なようです。

顔面を電気刺激して発見
真の笑顔と偽の笑顔

 では、なぜ私たちは他者の表情から心の内を読み取れるのでしょうか。そもそも表情と心の内を関連づけられるのは、特定の表情が内面の感情や心の状態と結びついているからです。では、それぞれの感情に対して、一意に表情は決まっているのでしょうか。またそれは、人類皆に共通しているのでしょうか。これらの謎に迫るために、今から100年以上前、取り憑かれたように表情を観察した研究者たちがいました。

 このうちの1人は、フランスの神経生理学者、デュシェンヌ・ド・ブローニュです。彼は、人間の顔のあちこちに電極をあて、筋肉に電気を流し、表情がどのようにつくられるかを徹底的に調べあげました。そして、電気刺激によってつくられたさまざまな表情を写真に撮り、まとめたのです(図4-2)。

図4-2同書より 拡大画像表示

 顔のあちこちの筋肉を電気刺激した結果、彼は一つの大きな発見をしました。それは、笑顔には真の笑顔と偽の笑顔の2つがあるということです。笑顔の表情には、口を横に開き、さらに口角を上げる頬の筋肉と、目じりを収縮させる眼輪筋が関わっていることを彼は同定しました。そして、心から笑っているときは、頬と目の周りの筋肉の両方が収縮するのですが、心から笑っていないときは、頬の筋肉だけが収縮し、目の周りの筋肉はまったく変化していないことを見つけたのです。

 また、デュシェンヌは、笑顔だけでなく悲しい顔や怒った顔も研究し、さまざまな表情は、2つか3つの表情筋の活動を変えるだけでつくり出せることを示しました。